VOICE
 
田口 吉則(株)チーム建築設計代表取締役/東京都建築士事務所協会編集専門委員)
世界3大発明とは、羅針盤・火薬・活版印刷術を指すそうだ。電気・車・コンピュータなどは? と思ったが、ルネッサンス以後の西洋社会に大きな影響を与えたものを一般的には呼ぶようだ。では日本3大発明は? と検索してみた。すると「亀の子たわし」が出てきた。
たわしの素材は、当初はシュロ(棕櫚)の繊維が使用されていたが、昭和初期ごろからシュロが不足し始めたため、より安価なヤシの繊維が用いられるようになった。毛が柔らかいたわし用には主に中国産のシュロを使用し、固いたわし用には、ヤシの繊維をスリランカ等から輸入しているという。
製造元は、亀の子束子西尾商店と高田耕造商店が知られている。前者は「亀の子束子」の登録商標を持っていて、後者は入手困難な国産(和歌山県)のシュロを使った「日本一高いたわし」が有名だ。いずれも職人によってひとつひとつ丁寧につくられ、その製造方法は約100年間ほぼ変えていない。
北区滝野川にある「亀の子束子西尾商店」を訪ねた。その建物は、古くて趣があるがどこかかわいらしいファサードだ。前面にはあのシュロの木が植えてある。建物の構造が外見から分からなかったので、店員さんに尋ねたら「分かりませんが、大正時代に造られ関東大震災にも耐えたんですよ。以前は事務所で使っていましたが、近年お店として使用しています」。1階の店舗内は、たわしを中心に商品がおしゃれに陳列されている。「2階は傷みが激しい」とおっしゃっていたが、たわしと同様いつまでもこのまま残しておいていただきたいと思った。
さて今年の東京建築賞が発表されました。将来の「たわし」になる作品はどれかな? などと思いを巡らせる「わたし」です。
田口 吉則(たぐち・よしのり)
1953年東京生まれ/(株)チーム建築設計代表取締役/東京都建築士事務所協会編集専門委員
記事カテゴリー:その他の読み物
タグ:VOICE編集後記