第42回東京建築賞総評
 
栗生 明(東京建築賞選考委員会委員長)
 第1次審査は写真、図面、説明書類などによる机上の審査です。建築は実際にその建築の空間や周辺環境との関係を理解することで価値付けられます。そこで机上では理解しづらい作品も、見落とすことのないように慎重に選考し、現地審査で確認することを心がけました。
 第2次審査は、部門ごとに、実際に現地審査に行った選考委員の意見を尊重しつつ、さまざまな角度から丁寧な議論をし、すべての部門で最優秀賞、優秀賞、奨励賞候補を仮決めしました。
 その上で改めて、東京都知事賞はどの作品が相応しいかを議論し、全選考委員の賛意のもとに、「諏訪2丁目住宅建替事業」が東京都知事賞に選定されました。多摩ニュータウンの初期に建てられ、老朽化した中層共同住宅の建て替え事業です。この事業は多摩ニュータウン再生の先駆けとなる事業であり、マンション建て替え円滑化法を活用した国内最大規模(640戸→1,249戸)のマンション建て替え事業となります。東京都も、多数の区分所有者による建て替えに向けた合意形成を円滑に進めるため、都市計画の変更や、建設工事費等の一部助成、仮移転先としての都営住宅の提供などの支援を行ってきました。空間形態上のデザイン評価とは別に、住民の熱意はもちろん、長期にわたる粘り強い合意形成のための交渉を通じて、困難な事業を成し遂げた設計事務所をはじめとする関係者の方々の努力に敬意を表したいと考えました。これからますます増えてくる共同住宅の建て替え事業の優れたモデルとして東京都知事賞を授与することにしました。
 戸建住宅部門は質の高い応募作が多く、激戦でした。特に「たまプラーザの家」と「L×4」は議論が伯仲しました。最後は路地的空間を巧みに取り込み、内外空間の連動による空間の流動性と視線の見交わしの演出、さらにはディテールの確かさで「たまプラーザの家」に軍配があがりました。
 共同住宅部門では、「KDXレジデンス赤坂」が最優秀賞に選ばれました。この設計事務所は東京建築賞の常連であり、今回も戸建住宅部門の奨励賞も同時に受賞しています。敷地環境に対する高度な分析力と、施主の要求や技術的、法的問題に対する創意に富んだ問題解決能力が高く評価されています。この作品も外部テラスの外装に、特製の煉瓦ブロックを市松に積むことで、内外の視線を操作しつつ、赤坂のまちなみのなかで品格ある佇まいの共同住宅を実現しています。
 一般一類部門は対極的ともいえるふたつの保育園作品が議論になりました。「はくすい保育園」は傾斜地に雛壇状に床を設え、大屋根で覆ったものです。見渡せる視界の中で展開するレベルの異なる空間は子どもたちにとって冒険心をくすぐる魅力的なものと映ります。一方「新栄保育園」は前回の東京建築賞でも廃校を利用した保育園の作品で優秀賞を受賞した事務所の作品で、保育園の設計実績が生きています。子どもの行動特性を熟知し、家具什器などに及ぶ隅々まで目の行き届いた密度の高い設計になっています。2作品そろって優秀賞に選ばれました。
 一般二類部門は「桐朋学園大学音楽学部調布キャンパス1号館」が最優秀賞に選ばれました。閉鎖的になりがちなこの種の施設の中で、練習スタジオ群と共用空間を巧みに配置することで、開放的で魅力的な活気を生み出すことに成功しています。構造計画、環境計画はもちろんのこと、音響、光、気流のシミュレーションにより豊かな空間をつくり出しています。優秀賞は「大手町タワー / 大手町の森」と「飯野ビルディング」が選ばれました。この2作品は都心に建つ複合ビルであり、それぞれスーパーゼネコンの設計施工作品として揃ってCASBEEのSランクであり、その性能の良さは折り紙つきです。都市に豊かな緑を供給することと、地上、地下の歩行ネットワークの充実により、地域全体の快適性向上、魅力付けに大いに寄与しています。
栗生 明(くりゅう・あきら)
建築家、栗生総合計画事務所代表取締役
1947年 千葉県生まれ/1973年 早稲田大学大学院修了後、槇総合計画事務所/1979年 Kアトリエ設立/1987年 栗生総合計画事務所に改称、現在、代表取締役/1989年「カーニバルショーケース」で新日本建築家協会新人賞、1996年「植村直己冒険館」で日本建築学会作品賞、2003年「平等院宝物館鳳翔館」で日本芸術院賞、2006年「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」で村野藤吾賞ほか、受賞多数
タグ: