
「これ君がつくったの、サインしてヨ」
そのひとことで、息子が折紙でつくった小さなトンビは「作品」になった。
それまで緊張していた息子は顔をほころばせてうなずき、やけにかしこまった漢字で名前を書いた。先日、とあるギャラリーにて。私の約二〇年来の師匠である建築家石山修武氏との微笑ましいひとコマだ。
2年前、縁あって石山さんの初期の名作「幻庵」を訪れた。鬱蒼とした山中。こちらとあちらの世界の結界を越えるように小川の飛び石を渡り、少し斜面を登って対面する。鉄は錆び基礎にはコケが生え、年月を経て朽ちているのに、驚くほど生々しいひとりの人間の感性が宿っている。鼓動が高鳴る。ああ、これが建築の魔力かと思う。この魔力は何だろうと考えたとき、石山さんの言葉が脳裏に浮かんだ──「モノを創るとは、その人の『中に在るものが、外に出るだけ』」そして中に在るものの正体とは、その人間の「人格と心境」にほかならない。すなわち自らそのものを投じる覚悟の先にこそ「作品」と呼べる建築は生まれるのだろう。規模や用途に限らず、である。
匿名性の時代になって久しい。情報だけでなく、建築も含めて大量のモノが絶えず生まれては消費される。誰がつくったのか、いや、人間がつくったのかAIがつくったのかすら、追求する術も必要性もない。それでも今を生きる一創作者として、私はサインすべき建築「作品」をつくることを目指したい。

宇那木 麻衣(うなき・まい)
東京都建築士事務所協会江東支部、一級建築士事務所 club Mai architects
東京都生まれ/早稲田大学大学院修了後、大林組/2018年 一級建築士事務所 club Mai architects設立
東京都生まれ/早稲田大学大学院修了後、大林組/2018年 一級建築士事務所 club Mai architects設立
カテゴリー:歴史と文化 / 都市 / まちなみ / 保存
タグ:思い出のスケッチ
















































