
突然現れた巨大な怪物。旧香川県立体育館である。その量塊感と圧倒的な迫力に腰を抜かしそうになる。荒々しい呼吸と共にこの世に襲いかかろうとしていた得体の知れぬ生き物が一瞬にして化石化したかのように、ピタリと時が止められた筋肉の緊張感。まさに構造美。ヌッと空に突き出された大きなアゴはキャンティだが少しも危なっかしくない。
一周するうちに、なぜだろう、あたたかい体内にとりこまれたような穏やかな感覚に包まれていく。残念ながら中には入れなかったが、覗いてみると軒のゆったりとしたカーヴがそのまま空間に吸い込まれ、大きな口をあけたようなエントランスが見えた。
風の通るピロティに座り込み軒を見上げる。叫びたくなるほど躍動的に、真っ青な空へつき上がっていく。菱形に穿たれたワッフルスラブの彫刻的な陰影は自然の摂理を思わせる規則性があり、太陽の動きと共に刻一刻と姿を変える。地球の視点を得たくなり地面にビッタリと寝そべってスケッチしていると、雲が動いているせいか巨大な船に乗っている錯覚にとらわれる。空を漕ぐ幻の船──結局、私はいつだって自由なのだ。
2008年の旅日記です。これを最近引っ張り出したのは言うまでもなく、この建築が失われようとしているからです。そしてこれに限らず「建築そのもの」の社会的価値が今、問われているのではないでしょうか。

宇那木 麻衣(うなき・まい)
東京都建築士事務所協会江東支部、一級建築士事務所 club Mai architects
東京都生まれ/早稲田大学大学院修了後、大林組/2018年 一級建築士事務所 club Mai architects設立
東京都生まれ/早稲田大学大学院修了後、大林組/2018年 一級建築士事務所 club Mai architects設立
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タグ:思い出のスケッチ
















































