国からの回答
東京都建築士事務所協会、TARC(東京建築設計関連事務所協会協議会)、ならびに東京都建築士事務所政経研究会の要望書に対して
 当会は、(一社)東京構造設計事務所協会、(一社)東京都設備設計事務所協会及び(一社)日本建築積算事務所協会関東支部の3団体ならびに東京都建築士事務所政経研究会と共同して、令和7(2025)年10月29日に自由民主党東京都支部連合会に対し要望書を提出したところ、次のとおり回答をいただきましたのでご報告いたします。
要望1:
売主・買主が安心して中古住宅を取引することができる市場
 環境の整備並びに既存住宅流通市場の活性化に向け、新築の引渡後一定期間(10年)を経過した既存住宅の媒介契約を締結する際に既存住宅状況調査の実施を義務付けると共に、既存住宅の売主に対し既存住宅状況調査の費用を補填するための補助金制度を創設して頂きますよう要望いたします。
回答:
◦既存住宅の取引において、既存住宅状況調査を実施することは、買主に住宅の状況についての情報をわかりやすく提供するための有効な手段のひとつです。
◦一方で、既存住宅流通市場においてはさまざまな住宅の取引がなされており、購入後すぐに取り壊す予定の古家の物件など、既存住宅状況調査の必要性が低い建物にまで媒介契約時にその実施を一律に義務付けることは、過剰な費用負担を強いることになるため、慎重な検討が必要です。
◦また、令和7年度補正予算において、既存住宅状況調査の費用が補助対象となる「既存住宅流通活性化緊急促進事業」を新たに創設するなど、既存住宅状況調査の実施に対する支援を行っております。
◦引き続き、関係団体等と連携し、既存住宅状況調査を普及・促進するとともに、既存住宅状況調査が実施された住宅ストック数を増加させ、情報の非対称 性を解消することを通じて既存住宅市場の活性化に努めてまいります。
(担当:国土交通省不動産・建設経済局不動産業課、国土交通省住宅局参事官(住宅瑕疵担保対策担当室))
朝日コメント:
 現場においてまだまだ課題・問題点等があるかと存じますが、上記回答の通り、既存住宅状況調査の実施に対しては、補助事業の創設など一定の支援が講じられております。
 既存住宅市場の活性化を図る上では、売主・買主双方にとって過度な負担とならない制度設計が重要であり、こうした点も踏まえ、実務の実態に即した形で既存住宅状況調査の更なる普及が図られるよう、支援のあり方について引き続き検討を深めていく必要があると考えております。
(朝日 健太郎|自由民主党東京都支部連合会会長代行・参議院議員)
要望2:
建築設備設計者不足解消のための効果的な施策の実施
 現在、建築設計業界では建築設備設計者不足が大変深刻な状況で、これがネックとなり設計業務を受託することが困難な事態が多発しています。また、建築設備設計者は省エネ導入や再エネ促進、設備改修等において重要な役割を果たしていますが、これらの対応も不十分となることが危惧されます。
 つきましては、建築設備設計者不足を解消するため、建築設備士試験の受験資格についてー級建築士同様に実務経験を除外する要件の緩和、受験料引下げ等の受験者負担の軽減等、効果的な施策を講じて頂きますよう要望いたします。
回答:
◦人口減少、少子高齢化の影響により、建築設計業界においても、建築士をはじめとする建築設計を担う人材の安定確保が課題となっております。
◦とりわけ、建築設備設計については、省エネ対応の高度化、老朽化した設備の改修需要の増加等により、足下でも、人材不足が顕在化しつつある状況と認識しております。
◦国土交通省では、社会資本整備審議会において、建築分野の中長期ビジョンの策定に向け、議論を進めており、この中で建築設備人材の確保・育成のあり方についても、関係団体を交えて謙論を進めてまいります。
(担当:国土交通省住宅局建築指導課)
朝日コメント:
 建築設備設計者の不足が深刻化し、設計業務の受託や省エネ・再エネ対応に影響が生じている現状は、重要な課題として強い危機感を持って受け止めております。とりわけ、脱炭素化の推進や既存ストックの有効活用が求められる中で、建築設備分野の人材確保は喫緊の課題であると認識しております。
 ご指摘のとおり、受験資格のあり方や受験者負担の軽減は、人材の裾野を広げる観点から有効な方策の一つであると考えられます。一方で、専門性の高い分野であるがゆえに、質の確保とのバランスも十分に踏まえる必要があります。
 その上で、将来の人材確保に向けては、受験機会の拡大や制度の柔軟化も含め、実務実態に即した見直しの検討を進めるべきであり、関係団体の皆様のご意見を丁寧に伺いながら、実効性ある人材確保策の推進を引き続き訴えてまいります。
(朝日 健太郎)
要望3:
改修設計に係る標準的な発注仕様書の策定と料率算定基準の設定
 既存建築物の改修設計において、業務の標準的な発注仕様書の策定をご検討頂きたく要望いたします。
 その上で、現地調査、基本計画・基本設計及び実施設計等の各設計業務の料率算定基準を設定していただくよう要望いたします。
回答:
【標準的な発注仕様書については、大臣官房官庁営繕部より回答(後述)】
◦一般的に、設計業務の報酬は、当事者間の契約に基づき定められるべきものと考えております。
◦建築士法に基づき、「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準(令和6年国土交通省告示第8号)」を告示として定めており、その算定の方法として、
◦必要経費を積み上げて算定する「実費加算方法」
◦標準業務を定め、それを実施した場合の業務量の目安に基づいて算定する「略算方法」
を示しております。
◦ご指摘の改修設計は、令和7年12月に「今後の業務報酬基準のあり方について」として公表しており、ストック社会において、その業務の適正化を推進することが重要であるため、標準的な業務を定めることは困難を伴うものの、可能なところからその策定を目指して国と業界団体が協力して、まずは、業務のフローや業務内容についての整理を進めていくこととしております。
〈国の建築物の設計業務委託の場合〉
◦国土交通省官庁営繕部においては、「公共建築設計業務委託共通仕様書」を策定しており、改修設計を含め官庁施設の設計業務委託における標準的な仕様書として適用しています。
◦また、設計業務の発注に当たっては、業務内容や設計条件を整理して設計仕様書に明示することが重要であると認識しており、このような内容を含め、「営繕工事における生産性向上に向けた関係者間調整の円滑化のために営繕事業の各段階において発注者として実施する事項」を再整理し、令和5年3月に各地方整備局に通知しています。
◦今後も、「公共建築設計業務委託共通仕様書」を適用するとともに、各業務における業務内容や設計条件を設計仕様書に明示した上で、設計業務を発注するよう努めてまいります。
(担当:国土交通省住宅局建築指導課、国土交通省大臣官房 官庁営繕部整備課)
朝日コメント:
 改修設計の分野においては、業務内容の不明確さや報酬算定の難しさが、現場における大きな課題となっているとの認識を持っております。とりわけ、個別性が高いことを理由に標準化が進まない状況が続けば、結果として受発注双方に負担や不透明さが残り、適正な業務環境の確保にも影響を及ぼしかねません。
 上記回答の通り、報酬は本来当事者間で定められるべきものではありますが、改修設計の特性もあり、実務において参考とし得る考え方や整理の充実が一層求められている面もあると考えます。
 そのため、改修設計の特性を踏まえつつも、業務フローや業務範囲の整理をより一層具体化し、実務に資する形での標準化や明確化を進めていくことが重要であり、業界の知見を十分に反映しながら、実効性ある環境整備の前進を訴えてまいります。
(朝日 健太郎)
要望4:
耐震改修工事における大規模の修繕・大規模の模様替えの適用除外の取扱い
 木造建築物の耐震改修工事における屋根ふき材下地合板の取替え及び同じ場所での階段の付け替えに関しては、現状復旧工事と同等の改修であり、当該改修後の建築物が構造耐力上安全であることを耐震診断等により確認していることを鑑み、建築基準法第2条第14号に規定する大規模の修繕及び同条第15号に規定する大規模の模様替えに該当しない取り扱いとし、建築確認の対象から除外して頂きますよう要望いたします。
回答:
◦令和7年4月に改正建築基準法が施行される前においても、木造一戸建て住宅等の建築又は大規模の修繕・大規模の模様替を行う際には、建築確認が不要又は一部規定の審査が省略される場合でも、設計者や工事監理者の適切な関与のもと、建築物を基準に適合させて建築・改修を行う必要がありました
◦しかし、建築確認の審査省略制度を活用した多数の住宅で、不適切な設計・工事監理により、構造強度不足が明らかとなる事案が断続的に発生してきたことから、審査省略制度の見直しが議論されてきたところです。
◦このような経緯から、今回の法改正により消費者が安心して住宅を取得・改修できる環境を整備するため、2階建て木造建築物の大規模の修繕・大規模の模様替を行う場合についても、建築確認の対象とし、基準への適合性を確保することになりました。
◦このため、ご要望については法改正の趣習から対応が困難であると考えますが、建築確認が耐震化に向けた取組の支障とならないよう、既存建築物の改修に係る建築確認の適切な運用に努めてまいります。
◦なお、ご指摘の耐震診断により構造安全性が確保されている大規模の修繕・大規模の模様替については、既存不適格建築物において構造関係規定の遡及適用を緩和できる取扱いを技術的助言として周知しているところです。
(担当:国土交通省住宅局参事官(建築企画担当)室)
朝日コメント:
 耐震改修の推進に向けた今回の制度見直しについては、安全性確保と消費者保護の観点から、その趣旨は重要であります。
 一方で、耐震診断により安全性が確認された建築物に対する取扱いについて、技術的助言として一定の配慮が示されているものの、現場における運用の分かりやすさや安定性の観点では、更なる整理が求められていると思われます。
(朝日 健太郎)
要望5:
民泊事業届出における建築士関与の義務化と共通安全基準の策定
 民泊制度における建築的安全性と健全な運用を確保するため、全国の自治体において民泊届出時に建築士の関与を義務化し、建築的観点から建築基準法に準じる共通安全基準を全国共通の様式として策定し、建築物の構造・避難・避難・防火・衛生等の安全性を担保する制度を設けることを要望。
回答:
◦住宅宿泊事業法において、住宅宿泊事業を行う届出住宅は、人の居住の用に供されている住宅の一時的な利用であることや、年間提供日数の上限を設定していること等により、建築基準法上「住宅」であることを法令上明確化しており、建築基準法では「住宅」としての規制をかけているところです。
◦他方、届出住宅においては部屋の構造を熟知していない宿泊者が滞在することも想定されることから、火災が発生した場合の円滑な避難を確保するため、住宅宿泊事業者に対する義務として、
◦非常用照明器具の設置
◦避難経路の表示 等
を求めることとしております。
◦具体的な内容は、省令や告示で定めるとともに、更に「民泊の安全措置の手引き(平成29年12月26日)」により、その解説を行っているところです。
 この手引きにおいては、事業者が基準を守れているか確認できるよう、チェックリストを設けるなどの工夫も行っており、事業者による宿泊者へ安全措置が講じられるよう努めてまいります。(なお、自治体によっては、届出に際してチェックリストの提出を求めていると承知しているところです。)
(担当:観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室)
朝日コメント:
 民泊制度については、不特定多数の宿泊者が利用する住宅として位置付けられる中で一定の安全措置が講じられていることは承知しております。
 一方で、当該措置の履行の徹底については、実態との間に一定のギャップがあると指摘もございます。
 こうした状況を踏まえ、安全性の確保について事業者任せとならないよう、建築的観点からの関与や基準の分かりやすさを求める声があると認識しております。
 民泊の在り方も時代の変化とともに変容しており、実態に即した安全確保のあり方について、さらに検討を深めていく必要があると考えております。
 引き続き、監督現場の実情を踏まえた制度の適正化を訴えてまいります。
(朝日 健太郎)