
ガラスドアにはステンドグラス風のシートが貼られ、彼女の理想の装いに着替えていたが、足元のタイルは薄汚れていて、まだ前のお店の跡形を残していた。「ここも変えたいんだけどお金がね」と言いながら、彼女は扉の鍵を開けた。
母親の影響で中森明菜が好きな彼女から、80年代の懐かしさを感じられるスナックを開きたいと打ち明けられたのは、2年前に私が地元に帰省していた時だった。あの日からメニューに入れたいと言っていた、クリームソーダを含めたメニューの試食会が今日だ。
「イケナイ太陽の令和ver.のMV観た?まじでやばいよ」と彼女は言いながら、なみなみの炭酸飲料に、冷凍庫から取り出したアイスクリームをどぼんと載せてこぼした。
まじでやばいのはこぼしたドリンクを拭くよりもカラオケのリモコンを変えることを優先している彼女だったが、小学校の時から変わらないそんなところが、今日も私を安心させた。MVに登場した携帯電話の問い合わせ画面は、さっきまで昭和に浸っていた私たちを簡単に学生時代に戻す。当時のはじけたテンションを取り出して、今後の話に花を咲かせながら夏の夜が更けていくのを喜んだ。
経験していない昭和の時代に焦がれながら平成を大いに堪能した私たちは、ふたりだけでフライングオープンしたこの場所のこれからに期待する。

樺澤 みずき(かばさわ・みずき)
東京都建築士事務所協会千代田支部、日建設計、一級建築士
2018年 東京工業大学大学院卒業/2023年日建設計入社/プレゼンテーション部に配属され、現在に至る
2018年 東京工業大学大学院卒業/2023年日建設計入社/プレゼンテーション部に配属され、現在に至る
カテゴリー:歴史と文化 / 都市 / まちなみ / 保存
タグ:思い出のスケッチ









