社労士豆知識 第75回
職場の定期健康診断
加藤 玉樹(共生社会保険労務士事務所)

 労働基準監督署は毎月一定の計画に基づき、企業を訪れて労働基準法や労働安全衛生法などの遵守状況を確認するための立ち入り検査(臨検)を行っています。厚生労働省が公開した令和4年度定期監督の違反状況のうち最も違反件数が多かったのは「定期健康診断」でした。

健康診断を受診させる義務
 労働安全衛生法において、会社は、常時使用する労働者に対し、雇入れ時および1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行わなければならないと定められています。また深夜業などの特定業務に従事する労働者に対しては、特殊健康診断を配置換えの際および6カ月以内ごとに1回実施する必要があります。もし受診をさせなかった場合は、会社に対し50万円以下の罰金が科される可能性があります。ただし、雇入れ時に限り、雇入れから3カ月以内に健康診断を受けている場合に、健康診断結果の提出を受けたときは、雇入れ時の健康診断に代替することができます。
健康診断に係る費用負担
 健康診断の費用は、受診させる義務を課されている会社が当然負担することになります。また、健康診断を受診している時間について、特殊健康診断は業務の遂行に関して労働者の健康確保のために実施するものであるため、賃金の支払いが必要になります。その一方、一般健康診断は、業務遂行と直接の関連があるものではないため、義務とはされていませんが円滑な受診のため賃金を支払うのが望ましいとされています。
健康診断の対象者
 健康診断の対象となる「常時使用する労働者」とはいわゆる正社員だけではありません。有期契約であっても1年以上の雇用予定があり、週の所定労働時間が通常の4分の3以上であるパートやアルバイトも対象になります。
健康診断の法定項目
 雇入れ時健康診断及び定期健康診断の項目は、以下のとおりです。雇入れ3カ月以内の実施結果をもって代替する場合は、法定項目を満たしているか注意が必要です。
  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数の検査)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ–GTPの検査)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライドの検査)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査
※4について雇入れ時は胸部エックス線検査のみ/※医師が必要でないと認める場合省略できる項目あり/※特殊健康診断は対象業務によって検査項目が異なる
健康診断実施後の義務
 健康診断の結果は、労働者に通知した上で、個人票を作成し5年間保存しておかなければなりません。もし、異常の所見がある労働者がいた場合は、必要な措置について医師の意見を聞き、必要があると認められるときは、作業の転換や労働時間短縮等の適切な措置を講じなければなりません。この場合、再検査の費用までも会社が負担することは求められておりません。また、常時50人以上の労働者を使用する会社と、特殊健康診断を行ったすべての会社は、結果を遅滞なく所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。なお、健康診断結果は要配慮個人情報に該当しますので、慎重に取り扱い、厳格に保管しましょう。
まとめ
 会社には、労働者に対し健康的で安全な労働環境を提供するために必要な措置を講じる、「安全配慮義務」があります。健康診断をただ実施するだけでなく、その結果をもとに労働環境を見直し、適切に対処することで労災認定や安全配慮義務違反による損害賠償請求のリスク低減にもつながります。まずは、定期健康診断が適切に実施されているか、この機会に確認しておきましょう。
加藤 玉樹(かとう・たまき)
社会保険労務士、行政書士、介護福祉士、共生社会保険労務士事務所
早稲田大学卒業後、医療・福祉分野の法人で人事労務、経理、広報、国際業務を担当する/2011年社会保険労務士登録/東京都魅力ある職場づくり推進専門家、東京都社会保険労務士会台東支部社会貢献委員
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士