色彩のふしぎ 第17回
色によるアクセントとポイントの重要性
南雲 治嘉(デジタルハリウッド大学名誉教授)
アクセントカラーは単なるお洒落ではなく
建築に命を吹き込むほどの力がある
ポイントカラーは建築の要となる色
図❶ 音楽と言語のアクセント
アクセントの原点は音楽や言語にある。アクセントの意味を考えるとき原点に戻ると理解しやすい。
音楽の演奏に使われているアクセント記号は複数ある。これによって音楽の味わいや気持ちよさがつくられている。
アクセントの意味
 建築における個性的な表現の技法のひとつにアクセント付けがあります。アクセントを付けるかどうかで空間の雰囲気は大きく変化します。どのようなアクセントにするかで建築家の個性の強調の強さが決まります。
 アクセントを理解するためその歴史に注目しましょう。アクセント(accent)の語源は14世紀後半、言語の発音における特別な方法の呼称として成立したといわれています。元々は、フランス語のacent(13世紀)に由来し、ラテン語のaccentus の「言葉に付け加えられる歌」から来ています。
 これが音楽における「発声時にある音節を他の音節よりも高い音高または強調で強くする工夫」という意味として16世紀に定着しました。同時に「文章におけるアクセントを示すための記号や文字」が派生しています。
 20世紀に入り、ドイツのバウハウスなどで装飾芸術やデザインにおける「何かを強調したり目立たせるもの」という意味が生まれました。この時に、リズムやハーモニーという音楽用語もデザインで使われるようになりました。
 単調なものは複雑なものに比べ、ホッとする感覚を与えます。人がシンプルなデザインを好むのもそうした潜在意識があるからです。特に日本人はさっぱりした雰囲気を好む傾向があります。色や形が多ければにぎやかな雰囲気になりますが心が落ち着かなくなります。
 一方で単調なものに対して、飽きたり、興味を失ったりすることもあります。単調さは脳への刺激が弱く、極端にいえば何かをしようとする意欲を萎えさせることもあります。
 単調さは美的な効果はあるものの生命感のない機械的な雰囲気が強まります。微細でも刺激のある生活は生存へのモチベーションになるため、単調な会話、単調な音楽、単調な生活など、それから脱却したいと願う気持ちは誰にでもあります。そうした気持ちに応えるのがアクセントです。(図❶)
図❷ 五官にあるアクセント
アクセントは五官のすべてにある。それぞれの感覚を味わい深いものにする役割を果たしている。
ダンスやファッションでもアクセントは重要な要素として取り入れられている。
アクセントの種類
 最近ではアクセントという言葉はよく耳にしますが、生活のいたるところに存在しています。それぞれ使われ方は異なりますが、効果は共通しています。
 大別すると聴覚的アクセントと視覚的アクセントに分けることができます。聴覚的なアクセントには言語的なものと音楽的なものがあります。
 言語的なアクセントは話し方に抑揚を付けたり、強調したりするときに使います。アクセントがない話し方は淡々としていて眠気を誘うことになります。
 音楽的なアクセントはリズムに関係しています。特定の音やビートを強調する時に使われています。音量を一時的に大きくすることによって、メロディーやリズムを活性化し、聴く手の感情を引き込むことができます。
 視覚的なアクセントはデザインに関係しているものと、文字(文学)に関係しているものがあります。
 デザインに関係したものの中に色と形があります。その他にもレイアウト(配置)があります。形は特に大小による変化と形態(丸とか星)によるものがあり、目線を誘引するのに使われます。色に関しては後述します。
 文字に関係したアクセントには、文章や詩の中で強調したいところに使われています。言葉の強調には同じ文字(言葉)を繰り返したり、修辞的な表現を行うことができます。効果としては特定のメッセージや感情を読者に伝え、印象に残すことができます。
 この他に、ファッションや料理にもアクセントは使われています。特にファッションでのアクセントは差し色と呼ばれ、コーディネートの重要な役割を担っています。少量の色で全体のイメージが生き生きとするのが特徴です。
 料理におけるアクセントは味覚と食感の両方にあります。料理を作るときに、知覚、視覚、食感、香り、驚きなどの要素を巧みに活用し、料理の美味しさを演出するのに使われます。
 私たちの生活にアクセントは欠かせない要素となっていることが分かります。当然のことながらアクセントは建築にも応用されており、その効果を正確に把握することが望まれます。(図❷)
図❸ アクセントカラーのふたつの機能
アクセントからの役割は活性化とメリハリのふたつ。
【空間の活性化】
同系色の配色は色味の統一感があり心地よい感覚を与える。
しかし、普通のきれいさで活気がない。
1カ所に目立つ色を入れるとその空間全体が生き生きとしてくる。同時に人の心を引き付けるものが生まれてくる。
【活性化のアクセント】
1カ所の色を反対の性格を持つ色(補色など)に置き換えると、空間全体が活性化しワクワク感を与える。
無彩色に近い部屋の中で赤のテーブルはひときわ目立っている。このテーブルがあることによってこの空間は活性化され、おしゃれな感じを見る人に与えている。このテーブルを外すと個性のない平凡な空間になる。
【空間のメリハリ】
落ち着きのない空間をしまったものにするのがメリハリである。
一見、統一された美を感じる空間だが、造作が細かく落ち着きがないものになっている。この空間にメリハリを与えているのはテレビのディスプレー。メリハリとして有効なのは暗い色である。
【メリハリのアクセント】
濃淡に差がなく密集している状態はメリハリに欠ける。1カ所に暗い色を入れると全体が締まった感じになる。
種々の性格を持つ葉の組み合わせはまとまりがなく雑然としている。1カ所を黒にすると一瞬で全体がピリッと締まる。アクセントのパワーが分かる。
アクセントカラー(強調色)の機能
 色によるアクセントがアクセントカラーです。日本語では強調色と呼ばれています。平凡な空間に、ある特定の色を入れると全体が大きく変化します。たとえば無彩色の空間に赤いソファを置いたりしますが、これによって空間が一気に活性化します。アクセントカラーが持つ力がかなり大きいことが分かります。
 アクセントカラーにはふたつの機能があります。そのひとつが緩慢な空間にメリハリを与え緊張感をもたらすことです。もうひとつが単調な沈み返った空間に生命感を与え生き生きとしたものにすることです。
 一般的に建築においては緊張感と安堵感をいかにうまくアレンジしていくかが求められる基本スキルです。これはオフィスとか戸建て住宅に関係なく、必要とされる設計要素といえます。見方を変えれば無駄のない単調さとゆとりのある安堵感をバランスよく組み合わせることが常に要求されているということです。
 建築デザインではシンプルデザイン(単調)とデコラティブデザイン(装飾)が対比されますが、機能性を重視する単調さと心の平穏を与える装飾性はまさに前回のテーマのバランスの問題です。
 建物をひとつのデザインだけで計画するのではなく、それぞれの部屋の機能を考えてシンプルかデコラティブかを使い分けるのもひとつの方法です。普通の家屋であればリビングに過度な緊張感は要らないでしょう。
 色彩の世界も同じで、単調な配色は飽きられます。最も単調な配色は無彩色によるものですが、お洒落と思われている部分もあります。そこにアクセントカラーが活躍する場があります。
 空間レイアウトや構成でも考え方は同じです。単調な構成は靜的なものになり、その対極にあるのが快活さのある動的な構成になります。単調な構成はダイナミックなイメージが希薄になりますが、配色で面積比(大小の対比)を強めるとダイナミックさを出すことができます。
 以上からいえることは、単調な空間に生命感を与えたり、緊張感を与えるのがアクセントということになります。建築家は仕事としてアクセントを付加することによって生命感や緊張感をもたらしているといえます。どのような色で、どの程度の大きさで入れるかは目指すイメージに関係しており、その人の裁量によります。
 アクセントカラーが個性を表現するという理由がここにあります。(図❸)
図❹ ポイントカラーの役割
ポイントカラーは自分が何者であるかを主張する色である。
種々1枚の写真として見ればポストはアクセントカラーとしての働きも見せているが、あくまでもポストであることを知らせている。ポイントカラーは、目印としての役割も果たしている。
オランダの船の修理工場は赤や橙が航海の安全を象徴するためポイントカラーとして使われている。一目でその存在が分かる。
ポイントカラー(主張色)とは
 アクセントカラーはよく知られていますがポイントカラーは専門家でも理解してない人が少なくないといわれています。聞いたことがある人でもアクセントカラーと混同してしまうのがポイントカラーです。アクセントカラーよりもその人の主張を強めたり、個性を表現するのに使われます。
 ポイント(point)は、主張や特徴を強調するものです。ポイントカラーは日本語では主張色と呼ばれています。その他の意味に場所・位置・得点などを表示することがあります。
 特に特徴などを強調するときに使われ、要点などの意味があります。当然そこにはその人の主張とか信念などが反映します。
 機能としてはアクセントカラーと共通する部分もあります。緩慢な空間にメリハリを付けたり、空間の活性化に役立ちます。アクセントカラーはそうした機能を果たすだけで、その色に特別な意味があるわけではありません。
 改めてアクセントとポイントの違いを確認してみましょう。アクセントカラーは機能だけで意味がなく、あくまでも視覚的なデザインの問題ですが、ポイントカラーにはアクセントの機能とは別に主張やメッセージがあるということです。
 また、アクセントカラーは小面積で使用しますが、ポイントカラーは面積に関係ありません。重要なのは空間のバランスをとるもっとも要ともなるところに置かれるということです。アクセントカラーは最高3カ所まで配色しますが、ポイントカラーはそれ以上使用してもかまいません。
 たとえば、ある企業が青をコーポレートカラー(企業を象徴する色)にしていた場合、その青を重要な場所(目立つ場所)に配色します。あるいは基調色として外壁やインテリアに使うこともあります。
 これによって企業イメージを印象づけることができます。よく見られるのはテレビCMで商品の色を背景に使ったりキャラクターに使ったりします。商品イメージを視聴者に焼き付ける効果があります。(図❹)
図❺ 色相対比によるアクセント
色味を対比させる(色相対比)と空間が活性化する。
ドアと壁の色は色相対比の関係にある。ドアの水色はアクセントカラーとして機能している。朗らかで元気なイメージに与えている。
赤青は色相対比の関係にあるが、彩度を低く抑えると対比による激しい刺激は弱まる。それでも生き生きとした効果は保たれる。ここでは赤が進出色なのでアクセントとして機能している。
色相対比によるアクセント
 私たちがよく目にするアクセントカラーは緑の空間に少量の赤を配色するものです。ただしリンゴ畑のリンゴはアクセントにはなりません。数が多すぎてアクセントとして機能することがないからです。
 リンゴ畑の緑と赤の配色は、同じ色の繰り返しによるリズムを生じています。リズムは見る人にワクワクした刺激を与えます。空間を活性化する働きはアクセントカラーも同じですが、メリハリを付ける働きはありません。
 アクセントカラーは状況によって異なるのでどの色がアクセントカラーということはできません。赤はもっとも誘引性が高いので使用される場面が多くなっていますが、決して赤だけがアクセントになるということではありません。場合によって赤でも目立たないことがあります。
 周囲に同系色がある場合は、アクセントとして使うことができません。また、全体が同明度のときは、どの色を使っても目立つことはありません。例えば明るい画面では明るい赤で強調することができないということです。
 もっとも効果的なのは補色に近い色を使うことです。補色に近い対比はハレーションを引き起こすなど、見る人に強い刺激を与えます。一例として青系の配色に橙をアクセントとして使うとアクセントとしての効果を発揮します。
 このとき、ピンクでも、赤でも黄でも使うことができます。全体の色調の補色を使うとアクセントとしての効果が高くなり、それに近い色でもそれに準ずる効果が得られるということです。使う色によって強調の度合いが変化することを意味しています。
 アクセントとして使用する色は一般的に純色が効果的ですが、これも周囲の状況によって異なります。周囲がグレイッシュな色調のときは純色でなくてもアクセントとして効果的です。
 全体が彩度の高い色調の場合は、補色を配色してもアクセントとしての効果は期待できません。こうしたときは、明度差を利用するか、無彩色を使うことになります。(図❺)
図❻ 明度対比によるアクセント
明るさの対比を利用したアクセント効果は色味の刺激を押さえたいときに応用される。シンプルでお洒落な効果になる。
色味のない白一色の部屋はきれいだが、締まり(メリハリ)に欠ける。
少しでも暗い色を入れることによって空間は締まって見える。空間では家具の色が大きな影響を与える。アクセント的に使うことができるので空間の活性化に応用できる。
明度対比によるアクセント
 明度の差を利用したアクセントは、白地に黒、あるいは黒地に白によるものが圧倒的に多いです。もちろんそれだけが明度によるアクセントではなりません。
 色には明度があり明るい色や暗い色という性格がありますが、それを利用したアクセントカラーになります。有彩色の暗い色調の空間に黄を少量配色すればアクセントとして機能します。逆に明るい色調の空間に暗い色調の色を少量使えばアクセントになります。
 明度によるアクセントカラーでは彩度の高い色を使う必要はありません。彩度の低い色味の対比は感情的な働きかけが弱く、時間的な感覚を強く受けます。
 時間的な感覚というのは、明確な時刻的なことではなく、大雑把に朝とか夜という感覚です。たとえば明るい色調の中の暗い色調のアクセントは朝の日差しの中の影のようなイメージになります。
 逆に暗い色調の中の明るい色調のアクセントは夜景の中の明かりのように見えます。いずれも微妙に色味が感じられるところが特徴です。微妙に色味が感じられる明度差を利用した配色は格調の高いイメージになります。
 朝霧の中の黒っぽく見える木は、ただソフトでつかみどころのない空間に慎ましいメリハリを与える効果を発揮します。逆に暗い奥深い森の中の白っぽいアクセントは神秘的な効果を発揮します。日本画家の東山魁夷(1908–99)の作品はこの手法を使ったものが多く見られます。(図❻)
図❼ 無彩色によるアクセント
色味がない世界でも深遠さや静けさを表現することができる。
与謝蕪村の『鳶鴉図』。墨の濃淡で描かれている。2羽のカラスがアクセントになっている。雪の中肩を寄せ合う姿に人生の深さが感じられる。
白を基調にした空間だが、黒の窓枠アクセントにとなり空間にメリハリを与えている。ソファーの灰色が空間に深みをもたらしている。
岡山城の正面。白の部分がアクセントになり、単調な色調を活性化し美しさを発揮している。アクセントを用いると無彩色でもここまで美的な空間にできる。
無彩色によるアクセント
 色味のない無彩色におけるアクセントカラーは以外に多くの場所で使われています。シンプルデザインの代表的な配色法といえます。無彩色の空間は色味がないため味わいがどうしても薄らぎます。
 この単調な世界を活性化するのがアクセントカラーです。無彩色の空間ではアクセントの持つ役割がきわめて高いといえます。無彩色の空間の優れたデザインはほとんどアクセントカラーが応用されています。
 たとえば黒を基調色として使った空間では白をアクセントとして用いることで、空間が活性化し、緊張感も高まります。これは、エクステリアでもまったく同じことがいえます。
 無彩色で配色した建物は大多数が白と黒の対比です。黒と白の対比は明度対比の中で最もコントラストが強くインパクトがあります。そのためにアクセントを付けづらくなっています。この場合活性化するためにリズムが用いられています。
 無彩色だけの芸術に水墨画があります。墨の濃淡だけで空間を表現していますが、画面の変化とメリハリを付けるためにアクセントを用いている例が多く見られます。
 無彩色だけの配色ではアクセントの役割はただ単に強調だけに機能するのではなく、精神的な哲学的な効果をもたらします。仏教における禅に似ています。
 無彩色の空間に有彩色を少量配色するとお洒落な度合いが高まります。機械的な空間にいきなり生命の息吹を醸しだします。茶室に飾る一輪の花の効果が宇宙における生命との関係を表すのに似ています。
 無彩色の空間に有彩色のアクセントを付けるのは広大な宇宙に輝く星の瞬きに近づきます。室内が宇宙として捉えるのは精神の視野を広げてくれます。
 アクセントカラーが果たす役割は、デザインの仕上げの部分で効果を発揮します。それだけに、ぜひ意識してほしいカラースキルといえます。(図❼)

次回は色による誘引性と視覚誘導について解説します。
南雲 治嘉(なぐも・はるよし)
デジタルハリウッド大学・大学院名誉教授、先端色彩研究所代表(先端色彩研究チーム/基礎デザイン研究チーム)、上海音楽学院客員教授、中国傳媒大学教授 先端デザイン研究室、一般社団法人日本カラーイメージ協会理事長、株式会社ハルメージ代表取締役社長
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)
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