現場見学会「水天宮建替計画」
東京都建築士事務所協会研修委員会
三上 紀子(レジオン・コンサバティブ(株)一級建築士事務所代表取締役、東京都建築士事務所協会文京支部)
参加者と水天宮社殿。
 平成28(2016)年1月22日、東京都建築士事務所協会研修委員会の主催による「水天宮建替計画」の現場見学会が行われました。16名が参加しました。
 水天宮は中央区日本橋蛎殻町に建つ、安産・子授け・七五三・初宮・芸能祈願・水難除けなどのたくさんのご利益で知られる神社です。
 今回の建替計画は、きたる平成30(2018)年に江戸鎮座200周年を迎えるにあたり、その記念事業として、社殿と社務所を建て替えるものです。その中心となるテーマは「参詣者待合の環境改善」と「震災対応」で、これらを配慮して、より優しく、より安心安全な神社を目指し、境内を一新することが目的です。
 見学に先立ち、設計施工に携わった株式会社竹中工務店より、計画についてのプレゼンテーションがありました。今回の建替計画のメインコンセプトは「地域に歴史を刻む新たなランドマークとしての品格を備えた、現代に生きる伝統とデザイン」ということで、具体的には3つの方策がなされています。
震災への対応
 参集殿・待合・社殿が建ち並ぶ境内全体を、基礎免震構造システムにより免震化しています。それによって境内に一歩足を踏み入れれば、参詣者や近隣の方々を大きな地震の揺れから守る「退避エリア」としての役割を担えるようになっています。
伝統と現代が融合した神社デザイン
 宮大工の伝統技術を活かした木造の神社建築(複合社殿形式)を継承し、伝統建築に配慮した社殿デザインとすると共に、外部と内部の木の造作の間にRC造の構造躯体を挟み込むといった現代の技術を駆使した耐火建築対応が図られています。
 また、伝統木造様式の社殿に対して、現代的な表現の待合や参集殿が背景となることを意図し、全体としてそれぞれのデザインが融合した、現代の神社としてのデザイン表現が行われています。
デマンドに応じた近代的な設備計画の実現
 震災時における一時避難者を受け入れ可能とするために、72時間運転の非常用発電機と緊急排水槽を設け、停電・断水および下水道が断絶した場合でも避難場所としての機能が維持できるように計画されています。
 一方、安産祈願がたいへん混雑する「戌の日」など、日によって大きく変動する参詣者の人数の変化にも対応でき、かつエネルギー効率を高めるために、デマンドに応じて空調や中水利用の雨水再利用水槽の使用量を制御可能としています。あらゆる部分に、利用者の快適性向上と、建物全体での省エネルギー化が実現されており、人にも防災にも環境にもやさしく配慮された設備計画となっています。

 プレゼンテーションの後、竣工間近の建物の内外を見学しました。引渡し前の現場は丁寧に養生がなされ、エリアごとに土足と上履きの区別が厳しく定められています。社殿は清々しい木の香りがします。待合空間は淡く優しい色調でコーディネートされ、通路は妊婦の参詣者の方々に配慮した緩やかなスロープが続いています。参集殿のエントランスホールは、「和モダン」を基調とした繊細なインテリアです。近代的でありながら、すべての人を優しく迎え入れるよう、ユニバーサルデザインが随所に取り入れられています。
 今回の建替計画によりRC造、地下1階、地上6階、高さ24mの近代的な神社へと生まれ変わった水天宮は、安寧・安産・子授かりへの人びとの願いを優しく受け止めつつ、新たに近代的な技術を備えた地域の防災拠点という役割を担います。江戸の昔から鎮座する宮として、「伝統」と「現代」との融合を、技術とデザインの両面より体現化した美しい建築として、この先も長く人びとから慕われ、次世代へと受け継がれていくことでしょう。まさにサステナブルな建築です。高く青い空へと向かって建つ水天宮を後に、清々しい気持ちで現場見学会を終えました。
三上 紀子(みかみ・のりこ)
レジオン・コンサバティブ(株)一級建築士事務所代表取締役、東京都建築士事務所協会文京支部
大阪市立大学生活科学部住居学科卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修了、住宅設計、リノベーションなど住空間を中心に、こどもクリニック・保育園等の設計監理を手掛ける。最近は文化的建造物の保存修復活用事業にも携わっている。
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