社労士豆知識 第71回
性的マイノリティに関する基礎知識
若田 充子(ビジョンウィズ社労士事務所代表)
 昨年、経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員に対して、最高裁判所は女性用トイレの使用を制限するのは違法であるという判決を下しました。今後、このような問題は各職場で増えることが予想されます。今回はこの性的マイノリティの問題について取り上げます。
 まずは、用語についてご説明します。
LGBTQ+とは?
 「L」はレズビアンで同性を好きになる女性です。「G」はゲイで男性を好きになる男性です。「B」はバイセクシュアルで、女性に対しても、男性に対しても、恋愛感情や性的欲求を持つ人です。「T」はトランスジェンダーで産まれたときに割り当てられた性別と実際にご本人が性自認する性別が違う人です。
 人間は多様なので、LGBTに合致しない人も当然いるので、そのような方々について、LGBTに「Q」と「+」をつけて「LGBTQ+」という言葉もよく使われます(「Q」「+」についての説明は省略します)。
カミングアウトとアウティング
 性的マイノリティの当事者が、自身の性的指向や性自認について他者に伝えることを「カミングアウト」といいます。
 一方、本人の同意なく、その人の性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露することを「アウティング」といいます。性的指向、性自認という機微な個人情報を意に反して明かされることは本人にとって非常に苦痛になると言われています。
LGBTQ+の方々が抱える生きづらさ
 LGBTQ+の当事者は、異性愛者と比べて自殺念慮が高いとされています。
 認定NPO法人ReBit(リビット)が、2022年9月4日(日)から9月30日(金)まで、LGBTQなどのセクシュアル・マイノリティ(以下、LGBTQ)の子ども・若者を対象に調査した結果(回答2,670名、うち有効回答2,623名)によると自殺を考えた割合は10代で50%近く、20代では40.3%、30代でも31.4%あったということでした。さらに、保護者へ相談できるかどうかという設問に対しては、9割が保護者に話せないと回答しました。性的マイノリティ者がいかに生きづらさを抱えているかということが浮き彫りになっています。
性別、戸籍の変更について
 性別、戸籍の変更をするには家庭裁判所で認めてもらう必要がありますが、それには、性同一性障害特例法に定められている一定の要件を満たす必要があります。その一定の要件とは、
 ①十八歳以上であること。②現に婚姻をしていないこと。③現に未成年の子がいないこと。④生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。⑤その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 上記④は性別適合手術のことです。つまり、トランスジェンダーの方が、自分が自認している性別で生きるには、自分の身体にメスを入れなければ法律で認めてもらえないという大変なハードルが課せられているということです。現在、G7で国レベルにおける同性パートナーへの法的保証がないのは日本だけであり、国連人事理事会などから人権侵害であると指摘を受けていいます。
 しかし、日本において何の進展もないかというとそうではなく、④の項目について、2023年10月に最高裁大法廷で初めて違憲の判断がされました。今度の国の動向が注視されるところです。
性的マイノリティ者への誤解や偏見
・性的指向や性自認は選択ではない
 科学的な研究において、性的指向は生まれつきのものであることが示唆されています。
・病気や異常ではない。
 かつては、同性愛などは精神疾患とみなされていましたが、現在では、世界保健機関(WHO)など主要な医療機関は、性的指向や性自認が病気や異常ではないとの認識に変わりました。
 職場において、カミングアウトの場面に遭遇した際、前提知識を持っているかどうかで、無用に傷つけ合うことを防ぐことにつながると思います。社内で研修会などを開いて理解を深めておくことはダイバーシティという観点からも、とても有益だと思います。
若田 充子(わかた・みつこ)
ビジョンウィズ社労士事務所代表
1975年 岐阜県生まれ/社労士事務所勤務を経て、2017年 ビジョンウィズ社労士事務所開設/2020年 明治大学大学院修士課程修了(経営学修士)
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士