バランスのとれた配色には緊張感がある
色の重さのとらえ方
水平バランスと垂直バランスの使い分け
建築空間におけるバランスはかなり幅広い部分で使用されており、ひとことで表すのは難しいです。主に構造的な安定性、美的価値、機能性、環境への影響などの評価の際に使われています。(図❶)
構造的な安定性は物理的な力の関係です。構造的な安定性には大別してふたつあります。 建物が静止しているときの力の分布が安定しているかどうかということです。もうひとつは建物の重さや荷重、それと地震などに対する構造物の反応が優れているかどうかです。
美的価値から来るバランスは、建物のデザインに関係しています。中でも多く見られるバランスの例はシンメトリーで、左右対称の構成という最も安定感があります。「この空間はバランスがいい」と言うとき、ほとんどの場合このシンメトリーを念頭においています。
左右対称の構成はそれほど難しいわけではありません。左右をまったく同じか類似した構成にすればいいので、誰にでもそれなりの効果が得られます。
ただし、シンメトリーは静止的で堅苦しさや単調さがあるため、動的な効果を出すためにアシンメトリー(非対称)にすることがあります。アシンメトリーでバランスがよいものをつくるのは難しさがあります。アシンメントリーは左右対称の一部を崩すことで表現します。そのためアシンメトリーのバランスは、レベルの高いスキルが必要とされています。
なぜバランスが必要かを改めて考えてみましょう。バランスがとれている状態とは力が均衡していることを表しています。均衡が崩れると一気にだらしがない空間になります。つまりバランスがとれているということは最も緊張している状態を指しています。緊張感は美しさを生み出します。バランスをとるということは美をつくるということを意味しています。(図❷-1)(図❷-2)
色は重さのない電磁波として電気的な刺激を与えます。そのボリュームによって目を閉じたり、目を背けたりします。ボリュームはその色の明るさや鮮やかさを感じさせますが、これは重さとは関係ありません。
では色の重さとは何でしょうか。色の重さは物理的な重さではなく、心理的な重さです。それがどのように生じているかを考察してみましょう。
一般的に同じ重量の白い箱と黒い箱を持ったときの重さの感覚に差があるといわれています。もちろんの白の箱の方が軽く感じます。荷物を運ぶための段ボール箱で白いものがあるのはそれが理由です。
白いものが軽く感じ、黒いものが重く感じるのかが分かれば、色に心理的な重さがある理由が解明できます。
白と黒を見分けているのは視細胞の棹体ですが、明暗すなわち明度を感じています。白は太陽光であり、黒は闇(RGBが0の状態)です。白はRGBが100%であり、黒は0です。このことからRGBが多いと軽く感じることが分かります。
色味であるRGBを感じているのは錐体という視細胞です。明度の高い色はふたつの視細胞を刺激し、明度の低い色の刺激は弱くなります。これは色味が失われると重さを感じるということです。さらに明度が低くなれば重さを増していくことになります(図❸)。
めに採用されています。黒い箱と比べて白い箱の方が、1.87倍も軽く感じるという検証結果があるとまことしやかに流布されていますが、これはあり得ません。 色の重さは物理的重量ではなく心理的なものであるため、数値による計測が不可能です。色の重さの感覚は人によって異なります。
白い箱は黒い箱よりも運ぶときのストレスを軽減する多少の効果はあります。効果があるなら白い段ボール箱が増えてもよさそうなのですが、現実はそうではありません。
普通の白い段ボール箱が増えない理由を検証してみましょう。この検証の結果には現代社会の問題に関係した意味が隠されていて興味深いものがあります(図❹-1)。
【段ボール箱の色】
箱の色は黒ではありません。そもそも黒い箱などほとんど見ることができません。白と黒の箱の比較をしても意味がないということです。大半の段ボール箱はクラフト紙の色です。
【白い箱と普通の段ボールの色の差】
一般的な段ボールの箱はクラフト紙(黄系)が使われています。白との明度差はそれほどなく心理的な重さに影響を与えるほどの差ではないといえます。
【白にするための工程】
普通の段ボールに使用されているクラフト紙は無漂白ですが、白にするためには漂白紙や白の塗料が印刷されたものを使用することになり、それだけ工程が増えるのでコストが高くなります。
【環境への影響】
漂白や白塗りの紙は生産工程で化学薬品を使用するため、環境への影響が少なからずあります。さらにリサイクルするときには漂白剤や塗料の処理などが環境汚染につながり高コストになる要因になります。
【耐久性の弱点】
白は汚れが目立つため、清潔感が必要なものには向いていません。また繰り返しての使用がSDGsでは求められるため白は敬遠されます。持続性のある耐久性は段ボール箱の基本です(図❹-2)。
物質には重さがありますが、これは引力が関係してきます。式で表すと下記になります。
重さ(W)=質量(m)×重力加速度(g)
地球の重力加速度は約9.81m/s²
重さとは引力が生み出しているということが重要です。これにより重さを数値化することができます。色の重さというときには視覚に頼り、数値は感覚的になります。
建築の構造計算はまさに重力のコントロールということになります。バランスがよければ倒れたり潰れたりすることはありません。また、予期しない大きな圧力がかかっても倒壊しない耐震性はこの構造計算から導き出されます。
バランスとは日本語に訳すと「釣り合い」になります。机の上に乗っているリンゴは、重力と机からの支持力によって釣り合っており静止しています。
天秤計りは左右の重さが釣り合うと静止します。これは重力と支持力の合計が0という意味です。似たような考え方の陰陽説でいうと陰と陽を足すと無になり、釣り合いがとれている状態を表すことになります。
釣り合いがとれるということは安定するという意味になります。安定感は人に心地よさをもたらします。バランスがとれているということは快適な状態であることを指しています。逆にバランスが悪い空間は居心地が悪くなります。
他の例でいえば、環境は昼と夜があって釣り合っているという意味になります。建築でいえば、外側(エクステリア)と内側(インテリア)の関係が釣り合うと違和感のない安定が得られます。
建築の構造では釣り合いは、建物の重心の配置に関わっています。建物の重心が適切に配置されることで、構造全体の安定性が保たれます。たとえば、超高層ビルでは、重心を低くするために下層部に重い設備を配置し、上層部には軽い材料を使用することがあります。
アーチ構造やボールト構造は、圧縮力を効果的に伝達することで安定性を確保します。ローマ時代のアーチ橋やゴシック建築の大聖堂に見られるように、アーチは両端にかかる力を均等に分散し、中央部分が崩れないようにしています。
トラス構造も三角形の単位を組み合わせ、力の分散を均等にして強度を高めています。
平面的な知覚では、壁面がそのメインになります。たとえば室内で「この部屋はバランスがとれている」と言うときは主に壁面の視覚情報によっての感覚といえます。
色によるバランスも結局は平面的な視覚によることになります。空間のバランスはほとんどが色によって引き起こされています。
建築の構造からくる物理的なバランスは分かりやすいですが、視覚的な(感覚的な)バランスはそれをつくり出す原理が分かっていないと、どのようにバランスとったらいいのか、雲をつかむようなことになります。
視覚的バランスをとるのに、色が果たしている役割は非常に大きいのですが、色は感覚的バランスでしかありません。
では、感覚的バランスのとり方について考えてみましょう。実は感覚的バランスの原理は物理的パランスの原理が基本になっています。天秤ばかりの釣り合いを応用します。
① 同じ大きさ、同じ色の場合、支点から同じ位置(力点)で釣り合います。
② 大きい形が支点に近い時は小さい形のものを支点から離して置くと釣り合います(図❺)。
色味の異なる場合は、その色の明度を基準に感覚的重さを想定して支点からの位置を決めます。たとえば黄と赤の場合、黄は明度がかなり高く、一方の赤は明度が低く、重さは明度に比例しているので、支点からの位置を同じにする場合は黄の形を大きくし、赤を小さくして釣り合いをとります。
実際の空間には複数の色が存在しているので隣接する同系色をグループとして捉え、グループ全体の重さとして釣り合いをとります。グループ化する色は同系色だけでなくもちろん同一色相の色で、しかもほぼ似たような明度の色であることが条件になります。
最も分かりやすい空間のバランスは、同じ色の壁の前に置かれた家具の色です。それは建築デザインとは直接関係はありませんが、インテリアデザインから来る空間のバランスとして無視できないものです。
水平バランスの基本は色の感覚的重さを割り出すことです。どんな色でも目を細めて見ると無彩色に近くなって見えます。こうすると感覚的重さを割り出すのが容易になります。
人間のふたつの眼は水平に付いています。そのため水平の距離や位置はかなり正確に把握することができます。しかも奥行きや遠近という感覚もこの水平に付いている眼だからこそ可能なのです。
水平バランスを見るとき、そこに重要なキーがあることに気づきます。それはセンターです。面にはセンターがあります。左右対称のシンメトリーはセンターラインを挟んで左右に広がります。シンメトリー以外のものでもセンターラインを意識しながらバランスをとります。
私たちがバランスを感じるのは、自分の立っている位置と空間のセンターの意識です。たとえば部屋の隅にいたとしても、意識は空間のセンターにあります。無意識のうちにセンターを求めているということができます。
バランスをとるときに基準となるのはセンターですが、重量を計る天秤ばかりに置き換えると分かりやすいです。センターは秤の支点となる部分です。センターを中心にして、左右が釣り合うようにするのが水平バランスのとり方になります。
水平バランスをとる際には、壁面のセンターを探すことから始めます。これだけはできるだけ正確に確認して家具などの配置を割り出していきます(図❻)。
垂直バランスを無視すると、見ている人に圧迫感、不安感、威圧感などを与えることになります。視覚的なバランスは見る人に無意識の内に影響を与えるやっかいなものです。気がつかないうちに侵してしまうとストレスに繋がります。
人間の眼は水平なものに対するものはある程度正確に把握できますが、垂直なものに対しては感覚に頼っているためかなり大雑把になります。
自分の目線より低いものは過小視し、高いものは過大視するという錯視のため高さに関してはかなりあいまいなものになります。建物はほとんど自分よりも高いので、実際よりも高く感じています。
自分より1cmでも高い相手を見るとすごく高く感じてしまうのは錯視のためです。逆にちょっとだけ低い人でも子どものように感じてしまうことも錯視の影響です。
垂直のバランスはこのようにあいまいな感覚の中で行われます。そのためバランスを期待通りに出せないことが多くなります。
建築の他に垂直バランスで行われているものにファッションのカラーコーディネートがあります。ファッションは上と下の色のコントラストによってバランスをとっています。ファッションは特に色の重さが基準になります。
建築の垂直バランスは高層ビルの構造的(物理的)バランスのとり方そのものになります。前述しましたが、バランスをとるためには重心を低くし下層部に重い設備を配置し、上層部に軽い材料を使用します。
これを色に置き換えると、上層部は明るい色、下層部は暗い色が、見る人に安定感を与えます。これを逆にすると不安定な心理作用を及ぼすことになります。この心理作用は潜在的なものであるために原因に気づくことはありません。
たとえば、上半分が暗い色の建物は見る人に威圧感を与えますが、それが嫌悪感になる場合が多いとされています。バランスを崩した建物は嫌悪感を生み、長い間にストレスとなります。バランスの悪い建物を日常的に使うことへの弊害を考え、人への配慮としてバランスのとれた配色を心がけたいものです。
色の軽重は建物のイメージに大きく影響します。明るい建物は軽快なイメージ、くらい建物は重厚なイメージになります。
暗い色が上半分を超えると威圧感が生じるため3分の1以内に抑えます。どうしても上半分を暗くしたいときは、明度を2段階ほど明るくするといいでしょう。もうひとつのやり方は上部を暗くする場合、下部にそれを支える暗い色を柱などに使用します(図❼)。
次回は空間配色におけるポイントとアクセントについて解説します。
色の重さのとらえ方
水平バランスと垂直バランスの使い分け
バランスの効果
芸術や建築の世界では「バランスがとれている」という言葉をよく使います。良い評価を表していますが、なぜバランスをとらなければいけないのでしょうか。まず、バランスの意味から考えてみましょう。建築空間におけるバランスはかなり幅広い部分で使用されており、ひとことで表すのは難しいです。主に構造的な安定性、美的価値、機能性、環境への影響などの評価の際に使われています。(図❶)
構造的な安定性は物理的な力の関係です。構造的な安定性には大別してふたつあります。 建物が静止しているときの力の分布が安定しているかどうかということです。もうひとつは建物の重さや荷重、それと地震などに対する構造物の反応が優れているかどうかです。
美的価値から来るバランスは、建物のデザインに関係しています。中でも多く見られるバランスの例はシンメトリーで、左右対称の構成という最も安定感があります。「この空間はバランスがいい」と言うとき、ほとんどの場合このシンメトリーを念頭においています。
左右対称の構成はそれほど難しいわけではありません。左右をまったく同じか類似した構成にすればいいので、誰にでもそれなりの効果が得られます。
ただし、シンメトリーは静止的で堅苦しさや単調さがあるため、動的な効果を出すためにアシンメトリー(非対称)にすることがあります。アシンメトリーでバランスがよいものをつくるのは難しさがあります。アシンメントリーは左右対称の一部を崩すことで表現します。そのためアシンメトリーのバランスは、レベルの高いスキルが必要とされています。
なぜバランスが必要かを改めて考えてみましょう。バランスがとれている状態とは力が均衡していることを表しています。均衡が崩れると一気にだらしがない空間になります。つまりバランスがとれているということは最も緊張している状態を指しています。緊張感は美しさを生み出します。バランスをとるということは美をつくるということを意味しています。(図❷-1)(図❷-2)
色の視覚的な重さ
色に重さがあるといってもピンとこないかもしれません。色は電磁波であり重さはありません。眼の中に入ってくる色が網膜に当たっても痛みを感じないのは物質的な重さがないからです。色は重さのない電磁波として電気的な刺激を与えます。そのボリュームによって目を閉じたり、目を背けたりします。ボリュームはその色の明るさや鮮やかさを感じさせますが、これは重さとは関係ありません。
では色の重さとは何でしょうか。色の重さは物理的な重さではなく、心理的な重さです。それがどのように生じているかを考察してみましょう。
一般的に同じ重量の白い箱と黒い箱を持ったときの重さの感覚に差があるといわれています。もちろんの白の箱の方が軽く感じます。荷物を運ぶための段ボール箱で白いものがあるのはそれが理由です。
白いものが軽く感じ、黒いものが重く感じるのかが分かれば、色に心理的な重さがある理由が解明できます。
白と黒を見分けているのは視細胞の棹体ですが、明暗すなわち明度を感じています。白は太陽光であり、黒は闇(RGBが0の状態)です。白はRGBが100%であり、黒は0です。このことからRGBが多いと軽く感じることが分かります。
色味であるRGBを感じているのは錐体という視細胞です。明度の高い色はふたつの視細胞を刺激し、明度の低い色の刺激は弱くなります。これは色味が失われると重さを感じるということです。さらに明度が低くなれば重さを増していくことになります(図❸)。
色の重さの心理効果
前述した通り、宅配便で使用されている白の段ボール箱は扱う業者の心理的な負担を軽減するために採用されています。黒い箱と比べて白い箱の方が、1.87倍も軽く感じるという検証結果があるとまことしやかに流布されていますが、これはあり得ません。 色の重さは物理的重量ではなく心理的なものであるため、数値による計測が不可能です。色の重さの感覚は人によって異なります。
白い箱は黒い箱よりも運ぶときのストレスを軽減する多少の効果はあります。効果があるなら白い段ボール箱が増えてもよさそうなのですが、現実はそうではありません。
普通の白い段ボール箱が増えない理由を検証してみましょう。この検証の結果には現代社会の問題に関係した意味が隠されていて興味深いものがあります(図❹-1)。
【段ボール箱の色】
箱の色は黒ではありません。そもそも黒い箱などほとんど見ることができません。白と黒の箱の比較をしても意味がないということです。大半の段ボール箱はクラフト紙の色です。
【白い箱と普通の段ボールの色の差】
一般的な段ボールの箱はクラフト紙(黄系)が使われています。白との明度差はそれほどなく心理的な重さに影響を与えるほどの差ではないといえます。
【白にするための工程】
普通の段ボールに使用されているクラフト紙は無漂白ですが、白にするためには漂白紙や白の塗料が印刷されたものを使用することになり、それだけ工程が増えるのでコストが高くなります。
【環境への影響】
漂白や白塗りの紙は生産工程で化学薬品を使用するため、環境への影響が少なからずあります。さらにリサイクルするときには漂白剤や塗料の処理などが環境汚染につながり高コストになる要因になります。
【耐久性の弱点】
白は汚れが目立つため、清潔感が必要なものには向いていません。また繰り返しての使用がSDGsでは求められるため白は敬遠されます。持続性のある耐久性は段ボール箱の基本です(図❹-2)。
バランスの意味
よく耳にするのが「この空間はバランスがとれている」という言葉です。何となく分かったような気がする言葉なのですが、建築のバランスとはどのような状態を指しているのでしょうか。バランスには物理的バランスと感覚的バランスがあります。まず、物理的なバランスを見てみましょう。物質には重さがありますが、これは引力が関係してきます。式で表すと下記になります。
重さ(W)=質量(m)×重力加速度(g)
地球の重力加速度は約9.81m/s²
重さとは引力が生み出しているということが重要です。これにより重さを数値化することができます。色の重さというときには視覚に頼り、数値は感覚的になります。
建築の構造計算はまさに重力のコントロールということになります。バランスがよければ倒れたり潰れたりすることはありません。また、予期しない大きな圧力がかかっても倒壊しない耐震性はこの構造計算から導き出されます。
バランスとは日本語に訳すと「釣り合い」になります。机の上に乗っているリンゴは、重力と机からの支持力によって釣り合っており静止しています。
天秤計りは左右の重さが釣り合うと静止します。これは重力と支持力の合計が0という意味です。似たような考え方の陰陽説でいうと陰と陽を足すと無になり、釣り合いがとれている状態を表すことになります。
釣り合いがとれるということは安定するという意味になります。安定感は人に心地よさをもたらします。バランスがとれているということは快適な状態であることを指しています。逆にバランスが悪い空間は居心地が悪くなります。
他の例でいえば、環境は昼と夜があって釣り合っているという意味になります。建築でいえば、外側(エクステリア)と内側(インテリア)の関係が釣り合うと違和感のない安定が得られます。
建築の構造では釣り合いは、建物の重心の配置に関わっています。建物の重心が適切に配置されることで、構造全体の安定性が保たれます。たとえば、超高層ビルでは、重心を低くするために下層部に重い設備を配置し、上層部には軽い材料を使用することがあります。
アーチ構造やボールト構造は、圧縮力を効果的に伝達することで安定性を確保します。ローマ時代のアーチ橋やゴシック建築の大聖堂に見られるように、アーチは両端にかかる力を均等に分散し、中央部分が崩れないようにしています。
トラス構造も三角形の単位を組み合わせ、力の分散を均等にして強度を高めています。
配色のバランスのとり方
空間のバランスといっても、私たちがそれを認識するのは視覚によるものです。しかも空間というよりは面として捉えるため平面的な知覚でバランスを感じています。平面的な知覚では、壁面がそのメインになります。たとえば室内で「この部屋はバランスがとれている」と言うときは主に壁面の視覚情報によっての感覚といえます。
色によるバランスも結局は平面的な視覚によることになります。空間のバランスはほとんどが色によって引き起こされています。
建築の構造からくる物理的なバランスは分かりやすいですが、視覚的な(感覚的な)バランスはそれをつくり出す原理が分かっていないと、どのようにバランスとったらいいのか、雲をつかむようなことになります。
視覚的バランスをとるのに、色が果たしている役割は非常に大きいのですが、色は感覚的バランスでしかありません。
では、感覚的バランスのとり方について考えてみましょう。実は感覚的バランスの原理は物理的パランスの原理が基本になっています。天秤ばかりの釣り合いを応用します。
① 同じ大きさ、同じ色の場合、支点から同じ位置(力点)で釣り合います。
② 大きい形が支点に近い時は小さい形のものを支点から離して置くと釣り合います(図❺)。
色味の異なる場合は、その色の明度を基準に感覚的重さを想定して支点からの位置を決めます。たとえば黄と赤の場合、黄は明度がかなり高く、一方の赤は明度が低く、重さは明度に比例しているので、支点からの位置を同じにする場合は黄の形を大きくし、赤を小さくして釣り合いをとります。
実際の空間には複数の色が存在しているので隣接する同系色をグループとして捉え、グループ全体の重さとして釣り合いをとります。グループ化する色は同系色だけでなくもちろん同一色相の色で、しかもほぼ似たような明度の色であることが条件になります。
最も分かりやすい空間のバランスは、同じ色の壁の前に置かれた家具の色です。それは建築デザインとは直接関係はありませんが、インテリアデザインから来る空間のバランスとして無視できないものです。
水平バランスのとり方
バランスには水平バランスと垂直バランスがあります。一般的によく見られるのは水平バランスです。バッキンガム宮殿や宇治の平等院などその例となる建物は世界中に存在しています。左右対称のシンメトリーですが両端に突き出たところがあります。これが重しとなって釣り合いをとっているのが分かります。水平バランスの基本は色の感覚的重さを割り出すことです。どんな色でも目を細めて見ると無彩色に近くなって見えます。こうすると感覚的重さを割り出すのが容易になります。
人間のふたつの眼は水平に付いています。そのため水平の距離や位置はかなり正確に把握することができます。しかも奥行きや遠近という感覚もこの水平に付いている眼だからこそ可能なのです。
水平バランスを見るとき、そこに重要なキーがあることに気づきます。それはセンターです。面にはセンターがあります。左右対称のシンメトリーはセンターラインを挟んで左右に広がります。シンメトリー以外のものでもセンターラインを意識しながらバランスをとります。
私たちがバランスを感じるのは、自分の立っている位置と空間のセンターの意識です。たとえば部屋の隅にいたとしても、意識は空間のセンターにあります。無意識のうちにセンターを求めているということができます。
バランスをとるときに基準となるのはセンターですが、重量を計る天秤ばかりに置き換えると分かりやすいです。センターは秤の支点となる部分です。センターを中心にして、左右が釣り合うようにするのが水平バランスのとり方になります。
水平バランスをとる際には、壁面のセンターを探すことから始めます。これだけはできるだけ正確に確認して家具などの配置を割り出していきます(図❻)。
垂直バランスのとり方
垂直バランスは縦の配色になります。高さのある建物は垂直のバランスをとる必要があります。高層ビルというより、すべてが視野に入るぐらいの高さの時に垂直バランスが働きます。垂直バランスを無視すると、見ている人に圧迫感、不安感、威圧感などを与えることになります。視覚的なバランスは見る人に無意識の内に影響を与えるやっかいなものです。気がつかないうちに侵してしまうとストレスに繋がります。
人間の眼は水平なものに対するものはある程度正確に把握できますが、垂直なものに対しては感覚に頼っているためかなり大雑把になります。
自分の目線より低いものは過小視し、高いものは過大視するという錯視のため高さに関してはかなりあいまいなものになります。建物はほとんど自分よりも高いので、実際よりも高く感じています。
自分より1cmでも高い相手を見るとすごく高く感じてしまうのは錯視のためです。逆にちょっとだけ低い人でも子どものように感じてしまうことも錯視の影響です。
垂直のバランスはこのようにあいまいな感覚の中で行われます。そのためバランスを期待通りに出せないことが多くなります。
建築の他に垂直バランスで行われているものにファッションのカラーコーディネートがあります。ファッションは上と下の色のコントラストによってバランスをとっています。ファッションは特に色の重さが基準になります。
建築の垂直バランスは高層ビルの構造的(物理的)バランスのとり方そのものになります。前述しましたが、バランスをとるためには重心を低くし下層部に重い設備を配置し、上層部に軽い材料を使用します。
これを色に置き換えると、上層部は明るい色、下層部は暗い色が、見る人に安定感を与えます。これを逆にすると不安定な心理作用を及ぼすことになります。この心理作用は潜在的なものであるために原因に気づくことはありません。
たとえば、上半分が暗い色の建物は見る人に威圧感を与えますが、それが嫌悪感になる場合が多いとされています。バランスを崩した建物は嫌悪感を生み、長い間にストレスとなります。バランスの悪い建物を日常的に使うことへの弊害を考え、人への配慮としてバランスのとれた配色を心がけたいものです。
色の軽重は建物のイメージに大きく影響します。明るい建物は軽快なイメージ、くらい建物は重厚なイメージになります。
暗い色が上半分を超えると威圧感が生じるため3分の1以内に抑えます。どうしても上半分を暗くしたいときは、明度を2段階ほど明るくするといいでしょう。もうひとつのやり方は上部を暗くする場合、下部にそれを支える暗い色を柱などに使用します(図❼)。
次回は空間配色におけるポイントとアクセントについて解説します。
南雲 治嘉(なぐも・はるよし)
デジタルハリウッド大学・大学院名誉教授、先端色彩研究所代表(先端色彩研究チーム/基礎デザイン研究チーム)、上海音楽学院客員教授、中国傳媒大学教授 先端デザイン研究室、一般社団法人日本カラーイメージ協会理事長、株式会社ハルメージ代表取締役社長
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)
1944年 東京生まれ/1968年 金沢市立金沢美術工芸大学産業美術学科卒業
著書『デジタル色彩デザイン』(2016年)/『新版カラーイメージチャート』(2016年)