思い出のスケッチ #368
Taman Sari(水の宮殿)
濱野 真由美(東京都建築士事務所協会千代田支部、日建設計)
 今夏、ジャカルタ在住の親戚を訪ねる機会があったので、少し足を延ばしてインドネシアの古都、ジョグジャカルタに赴きました。
 近郊の巨大な遺跡群はさておき、まずは市街地の観光をということで王宮など巡りました。
 離宮であるタマンサリは街にこぢんまりと顔を出しています。
 短い前庭を通り、二頭の竜が迎える門を抜け、暗いトンネルに入り階段を下りると、太陽に照らされ輝く碧い水面と薄赤の壁が目に飛び込んできました。トンネルの暗さと中庭の明るさの対比が何とも言えない高揚感を生みます。小さな入口の向こうにこの様な空間が広がっているとは! その体験は新鮮であり爽やかで、良くも悪くも混沌としたまちの活気にあてられて溜まっていた疲れが吹き飛びました。漆喰で塗りこめられた建物のディテールはシンプルで、トンネルの端部がピン角であることがシャープな陰影を生み出し、よりその空間の質を高めているように感じました。
 ここは、マタラム王国の王がつくったハーレムです。冬のない年中暑いこの場所で、水浴びする女性たちはさぞかし涼しげで、魅力的に見えたのではないでしょうか。
 王も女性たちも去ってしまった今、その様な雰囲気を感じることはまったくなく、水浴場をぐるりと囲んだスケール感のよい建築空間を楽しめる場所となっています。建物のそこここでは多くの方がこだわりの撮影をしていました。
 あまりにも素敵な体験だったので、出てからもう一度入り直したほどです。
濱野 真由美(はまの・まゆみ)
東京都建築士事務所協会千代田支部、日建設計
1987年 兵庫県神戸市生まれ/2009年 大阪大学工学部地球総合工学科卒業/2011年 大阪大学大学院工学研究科建築工学コース修了/2011年〜 日建設計/入社後、意匠設計者として設計業務に携わったのち、2022年より同社イラストレーションスタジオに在籍