令和7年度東京都への予算等に対する要望を提出
東京都議会自由民主党
都議会公明党
都民ファーストの会東京都議団
東京都議会立憲民主党
東京都都市整備局
 当会は、令和元年7月に発足した東京建築設計関連事務所協会協議会(通称TARC)のメンバーである(一社)東京構造設計事務所協会、(一社)東京都設備設計事務所協会及び(一社)日本建築積算事務所協会関東支部の3団体と共同して、東京都、東京都議会自由民主党、都議会公明党、都民ファーストの会東京都議団、東京都議会立憲民主党の5者に対して、令和7年度東京都への予算等に対する要望書を提出しました。
 以下に提出した要望書をお示しします。
 売主・買主が安心して中古住宅を取引することができる市場環境の整備並びに既存住宅流通市場の活性化に向け、既存住宅の売主に対し既存住宅状況調査の費用を直接補填するための補助金制度を創設すると共に、国に対し、既存住宅を売却する際に売主に既存住宅状況調査の実施を義務付けるよう働きかけることを要望いたします。
 平成30年4月の宅地建物取引業法の改正により、中古住宅の売買の際に行われる重要事項説明に、既存住宅状況調査の実施の有無及び実施している場合にはその結果について説明することが義務付けられました。
既存住宅状況調査とは、国土交通省の定める講習を修了した建築士が、建物の基礎、外壁など建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を把握するための調査です。
 この調査により、売主は中古住宅引渡し後のトラブルの可能性を減少させることができ、買主も安心して中古住宅を購入することができます。
 既存住宅流通市場の整備と活性化に繋がる本制度の重要性に鑑み、当会では積極的に既存住宅状況調査技術者講習を開催し、既存住宅状況調査技術者の育成に努めると共に、連合団体である一般社団法人日本建築士事務所協会連合会においても、本制度の周知・広告のために冊子を作成し、行政や独立行政法人住宅金融支援機構等の窓口に設置する等、さまざまな取り組みを行ってきました。
 しかしながら、既存住宅状況調査の実施件数は約4%と低調な状態が続いており(既存住宅状況調査の実施状況に関するアンケート調査結果、令和元年国土交通省実施)、残念ながら本制度が十分に周知されているとは言い難い状況です。さらに、既存住宅状況調査を実施する際の費用負担も、本制度の浸透の障害になっています。
 このような状況が常態化した場合、既存住宅流通市場の整備と活性化を通じて安全安心な住宅を提供することを企図した本制度の趣旨が没却され、売主・買主間及び業者間のトラブルが増大し、既存住宅の円滑な流通に支障が生じると共に、建物の長寿命化を進める国の施策にも反することに繋がります。
 つきましては、既存住宅の売主に対し既存住宅状況調査の費用を直接補填するための補助金制度を創設すると共に、国に対し、既存住宅を売却する際に売主に既存住宅状況調査の実施を義務付けるよう働きかけることを要望いたします。
 安全・安心な「セーフシティ」を構築するため、災害発生時に地域の避難所となる東京都所管の施設について、専門家集団である当会に定期検査・報告業務を委託していただきますよう要望いたします。
 現在、首都直下型地震の発生が危惧されているところ、東京都では、「TOKYO強靭化プロジェクト」を策定し、大地震にも「倒れない・燃えない・助かる」まちづくりを推進しています。災害発生時には多くの都民が、教育庁所管施設及び災害復旧の拠点となる福祉保健局所管施設等(以下「避難所等」という)に避難することが想定されています。
 この避難所等が十全に機能するためには、建築基準法第12条の規定に基づく定期検査・報告業務(以下「定期検査業務」という)により、避難所等を適切に維持・管理することが必要不可欠です。そのためには、高度な調査・検査能力を有する専門家が継続的に定期検査業務を実施することが欠かせません。
 しかしながら、現在、避難所等の定期検査業務は競争入札方式で委託先が選定されています。この方式では、極度の低価格で落札された場合、落札価格相応の不十分な業務しか行われない可能性があることに加え、落札する会社が毎年変更となることにより定期検査業務の継続性を維持できないケースが見受けられます。
 これらの弊害を避けるため、一部の区有施設では、一の団体に定期検査業務を委託し、当該団体の会員事務所が定期検査業務を実施した上で、最終的に当該団体が報告内容を精査する体制が採用されています。これにより、報告内容の正確性が担保されるだけでなく、担当した会員事務所が各物件の建築物特性や各部位の本来有する性能や防災上のあり方を理解し、経年劣化だけでなく不適切な運用がされている箇所等の不具合を発見し、それらに対して適切な処置や是正・改善に役立つ情報を施設所有者・管理者に提供することができます。いわば当該会員事務所がかかりつけの主治医「ハウス・ドクター」のような存在になっています。
 当会は建築士事務所で構成された都内唯一の法定団体であり、建築物の定期検査業務に精通した多くの会員事務所を抱えています。当会が定期検査業務を受注することにより、各物件の規模、特性及び地域性に応じた会員事務所を選定し、物件毎に適切な業務費で実施することができます。これにより、定期検査業務の質の高い水準を確保し、これらのデー夕蓄積により避難所等の維持管理にも役立つ情報を提供できるようになります。そしてこれを活用して、災害直後の応急危険度判定やその後の建築物復旧において迅速かつ適切に対応することが可能となります。これは、東京都が目指す安全・安心な「セーフシティ」の政策目標にも合致します。以上の観点より、災害発生時に地域の避難所となる東京都所管の施設について、専門家集団である当会に定期検査業務を委託していただきますよう要望いたします。
 既存住宅の省エネ・再エネを促進するために、建築士を対象とした省エネ・再エネに関する講習会の開催並びに同講習会受講者を対象とした(仮称)省エネ・再エネ資格者制度を創設していただきますよう要望いたします。
 東京都では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「ゼロエミッション東京」の実現を掲げ、2030年までにCO2排出量を50%削減するカーボンハーフを目指しています。
 この政策目標を実現するためには、特にエネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策・再エネ導入を進めることは必要不可欠な取り組みです。
 これを受け貴庁では、令和6年度に「東京都既存住宅省エネ再エネ改修促進事業」や「戸建住宅省エネ・再エネアドバイザー事業」等の事業を実施し、省エネ・再エネに関する取り組みを強化しています。
 しかしながら、設備分野を専門とする建築士は少なく、省エネ・再エネに関する設計業務やアドバイザー業務に必ずしも的確に対応できるとは限りません。
 他方、現在東京都のみならず全国的に設備設計を専門とする技術者(以下「設備設計者」という)の不足が深刻化しています。現在当会会員を対象に実施しているアンケート(令和6年8月8日時点)でも、(会社内部の)設備設計者が「足りていない」及び「全く足りていない」と回答した会員が約86%、設備設計を外部委託する際に困ったことが「よくある」及び「時々ある」と回答した会員が約86%を占めていることからも、その深刻さが伺えます。
 この状況を解消し省エネ・再エネを促進するためには、建築士を対象に、貴庁指定の省エネ・再エネに関する講習を開催し、その講習を修了した建築士を対象に省エネ・再エネに関する資格を付与することは、大変有益です。
 建築士を対象とした省エネ・再エネに関する講習会の開催並びに同講習会受講者を対象とした(仮称)省エネ再エネ資格者制度を創設していただきますよう要望いたします。
※ 貴庁は、木造住宅に特化した耐震診断・補強設計・工事監理について、都民が安心して木造住宅の耐震化に取り組むことを目的とし、平成18年に耐震診断事務所登録制度を開始されています。
※ 国においても、平成29年頃に国土交通省主導で住宅省エネルギー技術者講習会が開催され、受講後の修了考査に合格した受講者に修了証を発行していたことがあります。
 既存建築物の改修設計において、改修設計業務の標準的な発注仕様書の策定をご検討いただきたく要望いたします。
 その上で、現地調査、基本計画・基本設計及び実施設計等の各設計業務の料率算定基準を早期に設定していただくよう要望いたします。
 設計業務には大きく分けて新築設計と改修設計のふたつがあり、新築の設計料率については、令和6年1月9日発出の国土交通省告示第8号において詳細が定められているのに対し、改修設計についてはこの告示にあたるような基準が示されていないことから、適切な設計料率が設定されずに発注がなされている状況が散見されます。このような問題意識を受け、中央建築士審査会においても、次回の告示見直しに向けて、耐震診断・改修工事以外の改修工事の業務量に影響する要素や改修工事に係る業務内容の調査を検討することが公表されています。
 既存建築物の改修設計において、建築設計事務所が受託した設計業務(意匠・構造・設備・積算)を的確に遂行していくためには、発注仕様書の内容が明確に定められている必要があり、また、適切な設計料率の設定も必要となります。
 改修設計の発注仕様書は、受託業務の詳細を定める極めて重要な文書であるにもかかわらず、現状では発注仕様書の内容と受託業務の実態とが乖離している状況が見受けられます。
 例えば、設計業務には時系列に沿って、現地調査、基本計画・基本設計、実施設計の各業務が含まれますが、実施設計のみを受託した場合であっても、その前段階である現地調査や基本計画・基本設計の実施を求められる場合があります。これは標準的な発注仕様書が整備されていないことに起因するものであると考えられます。
 改修設計の発注仕様書の内容に不明確な部分があるために想定以上の業務負担が課される一方、改修設計料率が未整備の現状も相俟って充分な報酬を受領できず、建築設計事務所の経営に大きな影響を与えています。
 つきましては、既存建築物の改修設計において、改修設計業務の標準的な発注仕様書の策定をご検討頂くと共に、現地調査、基本計画・基本設計及び実施設計等の各設計業務の料率算定基準を早期に設定して頂くよう要望いたします。
 建築設備設計技術者の確保のために、都立職業能力開発センターのカリキュラムに建築設備設計を習得できるカリキュラムを設置して頂きますよう要望いたします。
 東京都では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「ゼロエミッション東京」の実現を掲げ、2030年までにCO2排出量を50%削減するカーボンハーフを目指しています。
 とりわけ、東京都が推進する「HTT」においては、設備機器の効率的な使い方や効率的なシステム化などの省エネに関わる設計、太陽光発電システムやバイオマスエネルギー利用と蓄電池の導入等の再エネに関わる設計が必要ですが、このような設計には建築設備設計技術者(以下「技術者」という)の役割が大変重要なものとなります。また、コロナ等の感染症対策として空調換気システム等により室内環境を適正化する場合においても、設備事務所の役割は大きくなっています。
 このように近年の省エネ・再エネや感染症対策に関する取り組みの増大により設備設計業務の需要が高まる一方、高齢化と人材不足により技術者を確保することが困難な状況が続いています(※要望3のアンケート結果参照)。
 また、人材不足の中でようやく採用した新人に対して、多くの設備事務所では入社後の社内実践による教育を通じて育成を行っているものの、業務量の増大により社内教育に十分な時間を割くことができていません。
 このような状況を解消するためには、体系的に建築設備設計を教育する機関が重要な役割を果たしますが、現状ではそのような教育機関の数は大変少なくなっています。
 東京都では、都内に複数設置した都立職業能力開発センターにおいて技能士補や第一種電気工事士等のさまざまな資格取得を支援されており、受講者の就職にも大きな成果を上げています。また、東京都設備設計事務所協会は設備設計事務所を会員とする専門家集団として、講師派遣やオープンデスク制度などを通して可能な協力をさせていただきます。技術者の養成を通じて、東京都の政策推進や都民の生活環境の改善にも大きく貢献できると考えます。
 つきましては、建築設備設計技術者の確保のために、都立職業能力開発センターのカリキュラムに建築設備設計を習得できるカリキュラムを設置していただきますよう要望いたします。