社労士豆知識 第69回
メンタルヘルスの基本と対策(前編)
市原 剛央(産業医・労働衛生コンサルタント)
メンタルヘルス疾患ってなんだろう?
 社労士・産業医の市原です。今回は、メンタルヘルスについて基本から解説していきたいと思います。
 最近話題のメンタルヘルスですが、典型的にはうつ病のような気分障害がそれに当たります。
 実務上は、ICD-10という世界保健機関(WHO)が提唱した病名分類のうち、分類コードF(精神および行動の障害)にあたるものおよび類縁疾患がすべて含まれます。
 たとえば古典的な燃え尽き型のうつ病や、新型うつとも揶揄される適応障害はもちろん、発達障害の問題やアルコール依存症のような疾患、ストレス性の胃潰瘍、自律神経失調症のような病気も含めて、「メンタルヘルスの問題」としてまとめることが多いです。
 とはいえ、理解のためには大きく3種類に分けるとよいかもしれません。

①「仕事のせい」とされることが多い、いわゆる新型を含むうつ病などの問題。
②発達障害のように仕事のせいとはいえないが、仕事に影響するメンタルヘルスの問題が発生、悪化することも多い問題。
③原因が「仕事のストレス」とされやすい、身体上の問題。
今回は①に限定して解説します。
なぜ起きる? メンタルヘルスの問題
 労働衛生の実務上は「ストレス脆弱性理論」が広く取り入れられています。
 これは、個々人の体質(脆弱性)に、体質以上の負荷(ストレス)がかかることによってメンタルヘルスの問題が発生する、という理論です。
 例えるなら、どのくらいのバーベルの重さを持ち上げられるかは人によって違う(脆弱性)が、持ち上げられる以上の重さ(ストレス)のバーベルを持ち上げようとすれば、怪我をすることもあるだろう(メンタルヘルスの問題発生)、ということです。
 その意味で、「メンタルヘルスの問題はストレスによって発生する」、と理解するのが一番手早いと思います。
どんなことがストレスの原因となる?
 では、どんなことが現役世代のストレスとなっており、メンタルヘルスの問題を発症させるのでしょうか?
 これは調査により大きく異なっています。
 たとえば警察庁が出している自殺の原因では、健康問題が最大の原因です。
 勤務問題による自殺は、原因がわかっているもののうち15%程度で、20~50代の現役世代に限定しても同様の結果です。
 ですが、現場での肌感覚は大きく異なります。
 現役世代のメンタルヘルス患者について、体感では9割以上が「仕事のせい」と言います。他のいくつかの調査も、数字の程度の差こそあれ、これを裏付けています。メンタルヘルス患者でも自殺にまで至る例は極めて少ないことを考えれば、この数字の乖離はそこまで不自然ではありません。
 とはいえ、違和感がないといえば嘘になります。
 筆者の肌感覚ですが、本人的には変えることが難しいと思える理由(私生活や家族関係など)よりは、仕事をストレスの原因として医師に伝えている人も多いのかな、と感じます。もっとも、仕事にストレスがあるのは事実でしょうし、その多寡を他人から推し量るのは難しいです。
 したがって、現役世代のストレスの原因のほとんどは「仕事のせい」ということになります。
市原 剛央(いちはら・ごお)
医師・医学博士・産業医・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・パワーハラスメント防止コンサルタント認定講師 他、労働衛生関連の資格多数。産業医として都内を中心に20社以上の健康管理を行っている。労働法への関心が高く、社会保険労務士試験にも合格し、登録している。安全衛生委員会の立ち上げから労基署対応、有害物質対応、健康経営へのアドバイスなど、企業ニーズに合わせて様々なアドバイスを行っている。
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士