大都市における計画規制の枠組み
大都市において都市づくりに係る計画・規制は、どのように仕組まれているのか、その枠組みを紹介すると、まずは、この都市や街を将来どのようにしたいのか、行政が住民の声を聴き社会の動きなどを展望、その想い考えをビジョンにまとめ、関係者に明示することから始まる。これは「基本構想」と呼称されたり、「グランドデザイン」といわれたりする。このビジョンの肝となる部分が、「コンセプト」(計画全体の指針となる基本概念)である。次に、この構想をふまえ目標とする都市や街を形成するため、多くの人びとが概ね予測可能な10年後を目標に、「基本計画」(都市整備全般を包括的にまとめたものと、都市再開発や住宅など分野別のものとがある)と称されるいわゆるマスタープランが策定される。これらを受け法定都市計画や任意の計画(都市再生計画、施設整備計画、地区再開発計画等)・施策などが、基本計画の具体化に向け整えられる。その中には土地利用の規制誘導に係る計画や、都市施設の整備に係る計画もあるし、市街地の開発や再開発また地区計画などに係る計画もある。それでは以下に、建築に関係する計画・規制の概要について案内する。
基本構想
都市づくりに係る基本構想としては、都道府県が行政計画として定める長期構想(計画)、また市町村(特別区を含む。以下同じ)が法定計画として定める「市町村の建設に関する基本構想」などがある。大都市においては、この構想計画に都市構造イメージが描かれる場合が多い(図①、図②)。そこでは、まず都市の現状や自然的状況、歴史的環境などをふまえ、「骨格構造(都心・副都心等の中心核や鉄道、幹線道路等の都市軸などにより構成)」に留意し、中心的な商業・業務地等の形成や、都市の主要な都市機能の配置構成が描かれ、必要に応じ開発誘導や環境保全を図る地域などが設定される。なお、この基本構想は、一般的には概ね20年後の地域の姿を展望し描かれる。
基本計画(マスタープラン)
長期構想(計画)や基本構想をうけ策定される、都市計画分野の指針的計画が、基本計画(マスタープラン)の性格を持つ「都市計画区域(Column 1参照)の整備・開発・保全の方針」(都市マスタープラン)と、「市町村の都市計画に関する基本的方針」(市町村マスタープラン)である。これらの計画は10年ほどの期間をもって、法定計画として策定される。「都市マスタープラン」は、都道府県が都市計画区域を対象に、広域的見地から策定する都市計画の基本的な方針であり、「市町村マスタープラン」は、市町村がその区域を対象に地域に立脚して策定する市町村決定の都市計画の基本的方針で、どちらも具体の整備内容などを定めるものではなく、これに続く個別の法定都市計画などを立案するうえで、指針となるものである。
■都市計画区域の整備・開発・保全の方針(都市マスタープラン)
都市マスタープランは、一体の都市として整備、開発および保全すべき区域である都市計画区域全域を対象にし、都道府県が市町村を越える広域的観点から、市街化区域・市街化調整区域の区域区分や用途地域、根幹的な都市施設などに係る都市計画の策定にあたり、基本的方針となるべく定める(都市計画法6条の2)。
その内容は、
①都市計画の目標(都市づくりの理念など)
②区域区分の方針(市街化区域と市街化調整区域の決定の有無およびその方針)
③土地利用に関する主要な都市計画の決定の方針
④都市施設の整備に関する主要な都市計画の決定の方針
⑤市街地開発事業に関する主要な都市計画の決定の方針
⑥自然的環境の整備又は保全に関する都市計画の決定の方針
により構成される。
この都市マスタープランは、都道府県が関係市町村の意見を聴き、都市計画審議会の議を経て、都市計画として決定する(都市計画法18条)。
なお、この他に個別法に基づく部門別のマスタープラン(都市計画法7条の2)、すなわち、都市再開発の方針(都市再開発法2条の3)、防災街区整備方針(密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律3条)、住宅市街地の開発整備の方針(大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法4条)が、都市計画として定められた場合は、都市計画区域内において定める個々の都市計画(都市施設については都市計画区域外のものも含む)は、都市マスタープラン同様、これら部門別のマスタープランにも即したものとしなければならない(都市計画法7条の2、2項)。
■市町村の都市計画に関する基本的方針(市町村マスタープラン)
市町村マスタープランは、市町村が主体的に独自性を発揮し、住民参加のもとに策定されるが、そこに定める内容は法には特に規定されていない。しかし、一般的には、①まちづくりの理念、②都市計画の目標、③全体構想(目指すべき都市像、実現のための主要課題、課題に対応した整備方針など)、④地域別構想(あるべき市街地像・地域像、実施されるべき施策など)とされている。
市町村マスタープランは、当該市町村の建設に関する基本構想(市町村の基本構想、国土利用計画・市町村計画)に即して原案を作成、公聴会を開催するなど住民の意見を反映させるため必要な措置を講じ、都市計画審議会の議決を経るなどして決定される(都市計画法18条の2)。
都市計画が決定されると、市町村の決定権限に属する法定都市計画(地区計画、特別用途地区、高度地区、4車線未満の市町村道、10ha未満の公園・緑地など)は、その内容を市町村マスタープランに即したものとしなければならない(都市計画法18条の2、4項)。
【立地適正化計画】
都市再生特別措置法(以下、「都市再生法」)に基づく「立地適正化計画(都市再生法81条)」は、この市町村マスタープランの一部として位置づけられており、都市再生に向け都市機能の立地を誘導するべく、市町村マスタープランの内容を充実する形で策定される。
立地適正化計画は、都市計画区域内について、都市再生基本方針に基づき、住宅および都市機能を増進する施設(医療施設、福祉施設、商業施設、その他の都市の居住者の共同の福祉または利便のため必要な施設であって、都市機能の増進に著しく寄与するもの)の立地の適正化を図るための計画で、市町村が単独または共同して作成するもので、その作成は任意である。
具体には、都市インフラの整備や土地利用規制という従来の制度と一体化した形で、コミュニティバスやデマンド型乗合タクシーの導入など、公共交通のネットワーク化による地域交通の再編と連携し、民間施設の整備を支援することで、居住、医療・福祉、商業など、都市生活を支えるさまざまな機能の誘導を図り、拠点の整備や拠点間の連携を強化するなどして、市街地の空洞化を防止、都市経営効率のよいコンパクトなまちづくりを進めるための計画をいう。
立地適正化計画区域は、都市計画区域内全体を対象とし、将来都市像を示して、「居住誘導区域」(一定の人口密度を維持することにより、生活サービスやコミュニティが、持続的に確保されるよう、居住を誘導する区域)を規定し、その中に「都市機能誘導区域」(医療・福祉・商業等の機能を、拠点へ誘導し集約することで、生活サービスの効率的提供を図る区域)を定める。
計画内容としては、一般的には、
①住宅および都市機能増進施設の立地の適正化に関する基本的な方針
②都市の居住者の居住を誘導すべき区域(「居住誘導区域」=居住を誘導し人口密度を維持するため、居住環境の向上を図る区域)および居住環境の向上、公共交通の確保、その他の当該居住誘導区域に都市の居住者の居住を誘導するため、市町村が講ずべき施策に関する事項
③都市機能増進施設の立地を誘導すべき区域(「都市機能誘導区域」=医療、福祉、商業等の都市機能を拠点エリアに計画的に立地誘導する区域)および当該都市機能誘導区域ごとに、その立地を誘導すべき都市機能増進施設(以下「誘導施設」)並びに必要な土地の確保、費用の補助、その他の当該都市機能誘導区域に当該誘導施設の立地を誘導するため、市町村が講ずべき施策に関する事項
④都市機能誘導区域に誘導施設の立地を図るため、必要な誘導施設の整備に関する事業、これに関連する公共公益施設の整備に関する事業、市街地再開発事業、土地区画整理事業など
⑤居住誘導区域にあっては住宅の立地、都市機能誘導区域にあっては誘導施設の立地、および立地誘導を図るための都市の防災に関する機能の確保に関する指針
そのほか、住宅および都市機能増進施設の立地の適正化を図るための必要な事項が定められる。
令和5年7月現在、全国で527団体が立地適正化計画を作成し公表している。
なお、立地適正化計画が策定されると、立地適性化計画区域のうち、居住誘導区域外において3戸以上の住宅等の新改築や住宅等への用途変更、またはそのための開発行為(0.1ha以上)を行おうとする場合には、着手の30日前までに市町村長に届け出なければならない。この届出に係る行為が住宅等の立地誘導に支障がある場合には、市町村長は立地適正化のための勧告を行なうことができる(都市再生法88条)。
また、立地適正化計画区域のうち居住誘導区域以外の区域(市街化調整区域を除く)で住宅地化を抑制すべき区域について、都市計画に居住調整区域を定めることができ(都市再生法89条)、居住調整区域内での3戸以上の住宅等の新改築や住宅等への用途変更、またはそのための開発行為(0.1ha以上のもの)に対しては、居住調整区域を市街化調整区域とみなし、市街化調整区域の開発行為に対し、付加される特別な開発基準(立地基準)の適用や、開発許可を受けた土地以外の土地における建築等の制限が適用される(都市再生法90条)。
一方、都市機能誘導区域については、誘導施設を含む建築物の建築を誘導する必要がある区域に都市計画で特定用途誘導地区を定め、用途・形態にかかる制限の緩和を行うことができる。また、居住誘導区域については、都市計画に居住環境向上用途誘導地区を定め、日常生活に必要な施設の誘導を図るため、用途・形態に係る制限の付加、緩和を行うことができる。
都市マスタープランおよび市町村マスタープランは、それぞれ関係都道府県また市町村のホームページで、閲覧することができるようになってきている。
都市計画
都市づくり構想の具体化は、これを受けた基本計画(マスタープラン)に基づく、基幹的な都市施設の整備計画の策定・実施、また市街化区域・市街化調整区域の区域区分や用途地域など地域地区の指定と、これらを活用した開発許可・建築確認等の土地利用規制の実施、さらに必要に応じ市街地開発事業等の事業計画の策定・実施などにより図られる(図④)。
土地利用規制等
■市街化区域および市街化調整区域の区域区分と開発許可制度大都市圏等においては、都市計画区域を、市街化区域と市街化調整区域とに区分し、それぞれの区域の性格に対応した措置が取られる。すなわち、市街化区域は、既成市街地と10年以内に市街化を図る区域で、ここには都市計画として用途地域、道路・公園・下水道の都市施設を定めることになるが、市街化調整区域は原則、開発を抑制する区域なので主要な都市計画は定めない。また、市街化区域では適切な市街化を誘導するため、開発行為(土地の区画形質の変更、図⑤)を制御するべく、その対象を明示するとともに、技術基準(都市施設整備との整合や環境・防災の確保など)を設け、開発を誘導している。一方、市街化調整区域では、この技術基準に加え立地基準を適用し、無秩序な開発を抑制している。
具体の開発規制は、表(表①)に見るように、地域の位置づけに応じ、規制対象となる開発規模や開発基準の適用関係が変わる。たとえば、線引きされた都市計画区域、三大都市圏の市街化区域だと、500㎡(都道府県知事が規則で300㎡まで、その規模を引き下げることができる)以上の開発が規制の対象となり、技術基準が適用される。
■地域地区、地区計画等の適用と建築確認等の制度
都市における建築の制御は、都市計画道路等の都市基幹施設の整備状況との整合に留意し用途地域が定められ、必要がある場合、これに付加して用途規制が必要なら「特別用途地区」、容積移転が必要なら「特例容積率適用地区」、高さ規制が必要なら「高度地区」、また市街の整備上必要なら「特定街区」、「高度利用地区」などを活用し誘導、さらに地域に即してきめ細かく規制誘導する必要があれば「地区計画」等(届出勧告制、整備内容の一部は条例化により建築確認制度適用)が用いられる。
用途地域は、土地利用規制の上で基本となる地域地区で、市街化区域内に必ず指定され、用途地域区分に応じ、建築物等の用途、形態、密度などを規制し、市街地環境の維持と土地利用の増進を図るものである。特別用途地区、高度地区などは、地域状況など必要に応じて指定され、用途地域規制に付加して規制される補助的な地域地区である。
市街化区域は用途地域をベースに、これにレイヤーをかける要領で必要なその他の地域地区が土地利用規制として上乗せされる形で重複指定され、建築規制等がなされる(図⑥)。これら地域地区による建築規制等は、建築基準法集団規定(※Column 2参照)の適用と建築確認制度などにより実現が図られる(図⑦)。
市街における建築規制の基本
■法制度が前提とする市街地東京の都心や下町のうち、土地区画整理が完了した地区は、区画道路が入り土地需要に適合した形で街区整備がなされているが、そのほかの一般市街は工場等の大規模跡地や、計画的に住宅地開発がなされた地区などを除くと、その多く(区画整理済みだが、街区内が細分化されている下町の商業地区も含む)は、狭隘な道路と狭小な建築敷地が広がっており、戸建て住宅地などでは建て替えに伴い建詰まったり、3階建て化が進み密集した住宅地となっている(写真❶)。
建築基準法第3章の集団規定は、東京などの大都市をイメージ、原則、細街路に面し配された中小規模の敷地に建つ建築物を想定し、建築基準が設定されている。しかも、法基準は1建築物1敷地を基本に構成されている。したがって、土地区画整理され街区の整った敷地規模の大きな地区に、こうした建築基準が適用されると、窮屈な制限となり土地の有効高度利用を阻害、都市づくりに支障が出てくることも考えられる。そこで街区単位に構成される敷地、これに準じる大規模な敷地、また一団の土地にキャンパス型で複数の建築物が計画的に配置構成される場合は、別途の措置を講じ、市街の状況にあった合理的な建築計画が誘導できるよう仕組まれている。すなわち、街区整備された市街や大規模敷地(図⑧)については、特定街区や総合設計、高度利用地区などの建築制度が、また住宅団地や大学・病院などキャンパス型の広大な一団の敷地(図⑨)に対しては、一団地認定の建築制度が用意され、良質な建築計画を誘導できるようになっている。
日本の都市計画制度は、経済成長に伴い拡大する都市をイメージし、都心部などから順次、玉突き的に土地利用転換が進む市街を想定、そうした状況下にあって効果を発揮する規制方法がとられてきた。具体には、建築活動の動きに対応し求められる土地利用転換が、周囲との摩擦軋轢少なく円滑に図られるよう、建物用途の種類を大きく括って幅広く規制する、ゾーニング方式(用途地域など)が採用されている。密度・形態面からの計画規制のイメージも、戸建て住宅地なら容積率は100%で高さは10–12m、タウンハウスのような低層集合住宅なら容積率は150%で併せて斜線制限、また中高層住宅地になると容積率は200%で併せて斜線制限、さらに、これに日影規制を加える措置が取られている。これを超えるような高密度な市街は、高層ないし超高層タワーの形態を想定し、比較的大きな敷地をイメージし、天空率方式などで高さを規制することが、合理的と考えられている。
しかし、安定成熟期に入った日本の都市は、都心部に機能集積が進むと、これに伴い順次、郊外に向け土地利用転換が起こる状況ではなくなり、地区ごとの状況に応じ経済活力の発揮や環境の保持が求められるようになってきている。そうした状況にあっては、土地利用規制の面でもきめ細かく土地利用を規定する方式での対応が望まれ、地区計画等を活用した詳細計画による規制誘導が有効で合理的と考えられるようになってきている。だが、日本の都市をみると、市街の敷地割は大小さまざまで、既成市街の多くは敷地規模等が一定していない(図⑩)。こうした状況から、長年ゾーニング方式で幅広に対応してきたが、この方式だと密集住宅地の中に中高層マンションが入り込むと、さまざまな土地利用上のトラブルが発生してしまう。そこで予めまちづくりの目標イメージを共有し地区計画等を策定、きめ細かく建築を規制誘導していく方向へと徐々に動いてきている。特例容積率適用地区などの手法も、地区計画等の下で適用方針を明示し柔軟に運用するようにすると、既存の敷地の規模・形状を変えなくとも、建築機能を地区内に再配置することが可能となり、土地の有効活用も進展していくものと考えられる。
■建築基準法における規制基準の性格
建築基準法が規定する建築基準は、国民負担にも留意し、安全面や衛生面などから「最低限の水準」として設定されている。したがって、より便利により快適にということで、市街の整備水準を上げるべく建築誘導していこうとすると、建築基準法では対応しにくい。そういう場合は、建築基準法とは別の法体系の導入が必要となる。すなわち、住宅長寿命化、バリアフリー化、低炭素化・省エネルギー化、景観形成などの社会的課題に対応し、最低基準から脱し、より高い整備水準を求めると、長期優良住宅の普及の促進に関する法律、高齢者等移動円滑化促進法、建築物省エネ法など、別途の立法が必要となる。
建築行政においては、これら法律に基づく建築計画の認定と建築確認とをリンクさせているが、これは建築物がその建設に多大な投資が必要で、その建築行為は不可逆性が強く、後戻りがしにくい(違法なものができ上がってしまうと是正しにくい)ことから、建築工事に入る前に、事前に(資本を投下する前に)建築計画の法適合性を確認(事前評価)しておこうとする趣旨である。
さて、建築基準法の集団規定においては、具体の規制内容は「都市計画で定める」とされている場合が多いが、この趣旨は、都市計画という場(同じ土俵)で、都市整備の進展状況を睨んで、都市インフラ関係の他の都市計画と必要な調整を行い、事前に相互の均衡を図っておこうとの趣旨である。たとえば、容積率、建蔽率など密度規制の数値は、目標年次(構想は20年後、基本計画は10年後)までの土地利用の動きを勘案し、道路や公園など都市施設整備の進展状況などに留意し定められている。また、用途地域等の都市計画は、5年に1度、都市計画基礎調査を行い、都市整備の進展状況をふまえ、必要に応じ見直すことになっており、都市施設の整備が進展したり、土地利用状況(建物利用人口の大幅な変動も含む)が変化すれば見直される。
Column 1
都市計画区域等
「都市計画区域」(都市計画法5条)は都市計画を策定する場であり、都市計画の基本理念(農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活および機能的な都市活動を確保すべきこと、並びに、そのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと)を実現するため区域を定め、都市的土地利用を促すための各種規制・誘導策を講じるとともに、都市側から道路、公園、下水道等の都市施設を整備するための公共投資を当該区域に集中することにより、効果的に都市の整備を図っていくものである。都市計画区域等
指定の対象となる区域は、①市または一定の要件に該当する町村の中心市街地を含み、かつ自然的および社会的条件並びに人口、土地利用、交通量等の現況および推移を勘案して、一体の都市として総合的に整備し開発し保全する必要のある区域、また②新たに都市として開発し保全する必要のある区域である。
都市計画区域は、市町村という行政区域の範囲にとどまらず、必要があれば当該市町村の区域外にわたり、実態上の都市を単位として指定することができる。なお、都市計画区域が指定されると、次のような効果が発生する。
①準都市計画区域における地域地区、また例外的に定められる都市施設等に関する都市計画を除き、都市計画はすべてこの都市計画区域内において策定される。
②一定規模以上の開発行為をしようとする場合は、都市計画法の規定(開発許可)が働き、都道府県知事等の許可を受けなければならない。
③建築物を建築しようとする場合は、建築基準法第3章集団規定(図③)が働き、建築主事または指定確認検査機関の建築確認を受けなければならない。
④土地区画整理事業、市街地再開発事業などの市街地開発事業は、すべてこの都市計画区域内で施行される。等々
この他、準都市計画区域(都市計画法5条の2)というものがある。これは都市計画区域外に存する土地の区域で、「各種の都市計画を活用し一体の都市として総合的に整備、開発および保全するほどの状況にはないが、現に相当数の住居その他の建築物の建築、またその敷地の造成が行われている区域、または将来行われると見込まれる一定の区域であって、土地利用を整序することなく放置すると、将来、都市として整備、開発および保全しようとする場合に支障が生じるおそれがあると認められる区域をいう。
対象となる区域は、農用地区域(農振法)や保安林区域(森林法)など個別規制法の区域指定から外れた、既存集落の周辺や幹線道路の沿道または高速道路のインターチェンジ付近などが想定されている。
Column 2
建築基準法集団規定
建築基準法に規定する建築規制には、大きく分けて単体規定と集団規定とがある。単体規定は全国適用で個々の建築物の構造安全性や防火・衛生面において一定の性能を確保することで、国民の生命や健康、財産の保護を図るための規定である。一方、都市計画区域・準都市計画区域について適用される、集団規定(①敷地と道路の関係、②建築物の用途制限、③建築物の形態制限(容積率、建蔽率、斜線制限、日影規制等)、④市街地の整備改善に資する特例(総合設計、連担建築物設計制度等)、⑤地域の特性に応じた詳細な建築制限(地区計画、建築協定等)などについて規定)は、そうした目的に加え、建築面からのまちづくりを通じ、公共の福祉の増進を図る規定である。建築基準法集団規定
社会制度としての建築規制は、社会目的を達成するため、個々の建築行為に対しルールを定め、建築を制限するものであるが、その内容は社会ニーズの変化に伴い変わっていく。建築基準法も毎年のように法令改正がある。また法令に規定される建築基準にも多少の運用幅があり、規定趣旨に沿い地域状況や建築計画の内容などに応じ適切に運用されることで、はじめて良好な建築・まちづくりが進んでいく。
ここでいうまちづくりとは、都市を安全で便利なものにしていくため、機能の維持や向上に向け建築物の整備と道路等の都市基盤施設の整備との均衡を確保したり、建築物相互の関係を規定し防災・環境面などから不適切な状況の発生を抑制するものである。すなわち、一定の用途・容積を有する建築物が集積していくと、それ相応の都市活動が展開されることから、それを可能とする道路交通容量の確保や、上・下水、電気・ガス等の供給処理サービスの提供が必要となる。これら公共サービスを提供する施設の整備が建築物の集積状況との間にバランスが取れていないと、都市活動は低下してしまう。
また、住宅と工場など異なる用途の建物が近接していると、騒音や振動また悪臭などの生活公害をもたらし、紛争化すると工場の操業が抑制されるなど、健康的で文化的な都市生活や都市活動の発揮が阻害されてしまう。さらに、住宅地などで建築物が好き勝手に建築されていくと、相隣関係において日照や採光また通風や眺望の阻害、圧迫感やプライバシィー侵害、また火災時に延焼被害の拡大などがもたらされるなど、安全で健康的な都市生活が損われることになる。そうしたことから建築物が集団的に立地する都市においては、まちづくりの面からの建築規制(建築基準法第3章集団規定)が必要とされる。
Column 3
用途地域と地区計画
地域地区の基本である用途地域(図⑪)は、経済の隆盛(市街拡大)期の1919年(3地域区分)に生まれ、これに続く経済成長(大都市化)期の1968年(8地域区分)以降に大いに活用された制度。用途地域と地区計画
人口・産業・諸機能の集積に伴い、都市拡大の動きを強める近代都市にあって、都市整備面から建築規制の中核となり、その後、安定成熟期に入ると、よりきめ細かな対応が求められ、地域区分の細分化に向け1993年(12地域区分)と、2018年(13地域区分)に改正されている。
明治の後半に始まり第1次世界大戦を経て、大正期に入りようやくなった日本の産業革命。これに伴い市街地には工場の立地が進み経済が隆盛、人口等が都市に集中してくると鉄道・軌道の敷設が進み、職住の分化を伴い市街地が拡大していった。
住宅など建築物等の集積に伴う市街地の拡大は、都市基盤として道路など都市施設の整備需要を生むことから、この動きに適切に対処するため、都市計画施設の制度と用途地域など建築規制の制度が導入された。
この時代は、木造建築が支配的で、鉄筋コンクリート造等の中高層建築物は、都心の一部にみられる程度だったので、用途地域制限(住商工と大雑把)と、建蔽率や絶対高さ制限(住居地域20m、その他の地域31m)を睨めば、市街の密度構成がつかめ、道路など都市施設の整備需要が把握できるため、建築物等の集積状況と均衡のとれた形で、都市施設整備に計画的に対応(都市計画制限をかけ市街地の熟度に応じ順次、事業化)できた。
その後、高度成長期に入ると、都市施設整備の進展と建築活動の状況との整合性を直接的に図るべく、容積率制度が導入される。そして1980年代以降、経済が安定化(一時バブル経済が発生するが)、バブル崩壊に伴い地価が下落すると都市の拡大はやみ、また都心部では再開発に伴う街の環境維持に向け、大規模跡地の再生や小街区を統合した大街区化による超高層建築物の建築などに、地区計画等(図⑫)の詳細計画制度が活用されるようになってきている(現在、都区部の用途地域の18%ほどに詳細計画が策定されている)。
これ以前も良好な住宅地などでは、ミニ開発や無秩序な建築物の中高層化を抑制し居住環境の維持保全を図るため、地区計画が活用されることがあった。
[参考文献]
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東京都都市整備局「計画、建築・開発行政」
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河村 茂(かわむら・しげる)
都市建築研究会代表幹事、博士(工学)
1949年東京都生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業/都・区・都市公団(土地利用、再開発、開発企画、建築指導など)、東京芸術大学非常勤講師(建築社会制度)、(一財)日本建築設備・昇降機センター常務理事など/単著『日本の首都江戸・東京 都市づくり物語』、『建築からのまちづくり』、共著『日本近代建築法制の100年』など/国土交通大臣表彰など
1949年東京都生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業/都・区・都市公団(土地利用、再開発、開発企画、建築指導など)、東京芸術大学非常勤講師(建築社会制度)、(一財)日本建築設備・昇降機センター常務理事など/単著『日本の首都江戸・東京 都市づくり物語』、『建築からのまちづくり』、共著『日本近代建築法制の100年』など/国土交通大臣表彰など
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