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大平 孝至(東京都建築士事務所協会会誌専門委員会・台東支部、株式会社ダイリン一級建築士事務所)
北東より見る。(撮影:筆者)
オフィススペース。
自宅兼事務所の建て替え(DAIRIN上野本社)
当事務所は元々自宅兼事務所で、100年ほど経った3軒長屋の端っこでした。子どもの頃は東隣も3軒長屋で、向き合う窓と窓の間は20cmほどしかなく、窓伝いに遊びに行ったり来たりした思い出があり、学生時代から自ら手を入れてメンテナンスしてきた建物でした。
東側の長屋は中学生の頃には長屋から鉄骨の店舗になり、10年ほど前には天空率を使った13階建てのマンションに建て替り、東側に大きく明るい空間ができました。5年ほど前には90年間の経年変化で土間配管が破損。土間まで掘り起こしての全面改装を行って、打合室とギャラリーを兼ねたスペースを有した事務所になり、この先当分は快適に使い続けられると満足していました。ところが2021年の正月が過ぎた頃、事務所と一体構造の長屋の西側が急遽、認可保育園になるとのことで、解体、建て替えのお知らせが来ました。いつもは逆の立場で開発に伴う近隣説明をしている自分にとって唐突ではありながら、事業に協力してあげたいとの気持ちもあって話を聞きました。最初は長屋を補強の上、切り離すとの話もありました。しかし、長屋は敷地境界線上に柱、壁があるわけで、切り離しての計画は断念。すべて解体の上、別々に建て直すこととなりました。当社としてはあまりにも唐突で、計画もしていなかった建て替えが始まりました。
建築デザインは新しく熟考、内装は愛着のある解体前の物を踏襲、家具もほぼすべてを再利用としました。一方設備はメンテナンス性に配慮した現代的なシステムに大きく変更して、高気密高断熱の躯体や窓の採用、細かく調整調光可能な換気照明計画により、ランニングコストの低減と、建築実験可能なラボ的性質を持つ建物としました。またもうひとつの変化としては、コロナ禍のなかで、デスクトップPCから在宅ワークも行えるノートPC主体の運用に切り替えたことにより、よりフレキシブルな事務所となりました。
今回事務所としての用途に限定しましたが、将来次世代が自宅としても使えるように予備設備を設け、100年近く運用された先代建築物のように受け継がれる建築を目指しました。
8月のお盆休みを狙って引っ越しを計画、LAN配線とHabの設置、サーバー等のネットワークは所員一同でセッティングを実施。お盆明けには新社屋でどうにか仕事ができるようになりました。建て替えから3カ月たって、ようやく新たな事務所に心から落ち着けるようになり、グループでミーティングやギャラリーの活用と、集中して仕事ができる快適なオフィスとなりました。
大平 孝至(おおひら・たかし)
東京都建築士事務所協会会誌専門委員会・台東支部、株式会社ダイリン一級建築士事務所
1984年 東京電機大学建築学科卒業/株式会社ダイリン一級建築士事務所勤務。マクドナルド、松屋、鳥貴族等、チェーン展開の飲食店の建築設計及び店舗デザイン設計をする
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