関東大震災100年
建物に求められる耐震性能について
藤村 勝(東京都建築建築安全支援協会)
 本年は関東大震災から100年の節目の年となります。年初にあたり、活動の原点となるべき建物に求められる耐震性能に係わる要点を以下にまとめて報告します。
表1 既往の大地震と耐震設計基準
既往の大地震と耐震設計基準
 関東大震災は本年から100年前の1923年9月1日午前11時58分に発生しました。この地震で発生した火災も含め190万人が被災し、14万人を超える人命が失われました。建物の被害は、地盤が悪い下町の本所で木造建物の約1/3が、山手の四谷では鉄筋コンクリート造(RC造)建物の約1/3が小破以上の大きな被害を受けたと言われています。
 この震災の翌年に市街地建築物法が改正され、建物の設計震度を0.1とする耐震規定が定められました。当時は大地震時にどのような力が建物に作用するか知られていませんでしたが、その後研究が急速に進み、表1に示すように発生した大地震の都度、耐震設計基準が策定・改定されました。
 1981年には中地震に加え、大地震に対する安全性の検討を求める新耐震設計法が定められ、1995年阪神・淡路大震災の年に既存建物に対しても大地震に対する安全性の検討を求める耐震改修促進法が公布されました。
表2 鉄筋コンクリート造建物の地震被害
建物の地震被害
 建築基準法が1950年に制定され、国内の建物はこの法律により耐震設計されることとなりました。これ以降における大地震でのRC造建物の地震被害を表2にまとめます。1968年十勝沖地震(M7.9)での中破以上の被害は大破・倒壊を合わせ16.5%、1995年阪神・淡路大震災(M7.2)における旧耐震設計建物の中破以上の被害率は三宮地域で33.0%であったと報告されています。2011年東日本大震災(M9.0)では津波による被害が甚大であったものの、地震の震動に伴う建物の被害率は過去の大地震ほど大きくなかったと言われています。
表3 建築物に求められる耐震性能
建物に求められる耐震性能
 建築基準法における耐震規定は改正の都度強化されてきたものの、現在の法体系において建物に求められる耐震性能は国民にとって明確ではありませんが、表3のように理解されています。
 建物の耐用年限中に2~3回程度発生する中地震に対しては、小破しないように建物が短期許容応力状態であることが求められます。500年に1回程度発生する大地震に対しては、大破しないように建物が必要保有水平耐力以内であることが求められます。
 これらふたつの地震規模の隔たりが大き過ぎるので、耐震診断基準ではこの中間の地震(耐用年限中に1回発生するかもしれない大地震)に対して中破しないように、建物の構造耐震指標Isが0.60以上であることを求めています。
 これらの想定される3つの地震規模に対して、目標性能とクライテリアをすべて満たすことが建物に求められる耐震性能です。
 大地震時の安全性は、新築建物では耐震強度(保有水平耐力Qu/必要保有水平耐力Qun)を算出し、既存建物では構造耐震指標(Is)を算出して検討しますが、両者の検討で求められるQu/Qun=1.0と、Is=0.60は同等の耐震性能です。
図1 標準せん断力係数(Co)と加速度(gal) (建築基準法)
図2 構造耐震指標(Is) (耐震診断基準)
現行法と耐震診断基準
 現行の建築基準法の耐震規定は、図1に示す2段階の地震力に対して1次設計、2次設計を行うことを求めています。
 1次設計は地表面の揺れで80gal程度の加速度、建物の揺れで200galの加速度に対して許容応力度計算を行います。2次設計は地表面の揺れで400gal程度、建物の揺れで1,000galに対して保有水平耐力計算を行います。
 重力加速度は1,000gal(正確には980gal)であるので、震度に換算すると1次設計は0.20、2次設計は1.0となり、この値を標準せん断力係数(Co)といい、耐震設計に用います。なお、建築基準法では限界耐力計算や地震応答解析などの計算法も規定しており、これらの計算法では建物の支持層以深の工学的基盤において、1次設計は64gal、2次設計では320galの揺れに対して安全性を検討することを求めています。一方、耐震診断基準では1981年以前に建設された旧基準設計建物に対して、図2に示す建物の耐力(Cy)と靭性(F)を計算し、この積から求まる構造耐震指標(Is=Cy×F)が0.60以上であることを求めています。
表4 設計法・耐震診断基準が求めている耐震クライテリア
計算法が求めている耐震クライテリア
 以上説明した点を整理し、建築基準法(①~④)と耐震診断基準(⑤)が求めている耐震クライテリアを表4にまとめます。これらの規定が定めている地震動は工学的基盤、地表面、建物での揺れと3種類あり複雑ですが、工学的基盤の揺れの1.5倍が地表面の揺れ、10階建て以下の建物では地表面の揺れの2.5倍がほぼ建物の揺れです。
 通常の耐震構造の建物は許容応力度、保有水平耐力計算を行い、1次設計は許容応力状態をクライテリアとし、2次設計は大破しないことをクライテリアとしています。免震構造や制震構造などの建物は、限界耐力計算やエネルギー法の計算を行い、建物の動的な性状を計算した上で、同様のクライテリアを確認します。一方、高さ60m超の建物などは地震応答解析を行い、1次設計は工学的基盤で64galの揺れに対して許容応力度以内をクライテリアとし、2次設計は工学的基盤で320galの揺れに対して中破しないことをクライテリアとしています。
 建物の耐震安全性は地盤と建物の動特性に大きく影響を受けるため、これらを適切に評価して判断する必要があります。事務所協会が設置している評価委員会では、耐震診断基準および他の設計法による補強設計に対しても評価を行っていますのでご利用下さい。
藤村 勝(ふじむら・まさる)
東京都建築建築安全支援協会管理建築士
1949年 長野県生まれ/1972年 日本大学理工学部建築学科卒業後、竹中工務店東京本店設計部入社/現在、東京都建築安全支援協会管理建築士