私の休日 第36回
野遊び
大谷 浩一郎(東京都建築士事務所協会墨田支部、(有)クエストワークス一級建築士事務所)
長野・山田牧場キャンプ場。三男坊と牛。
燃えさかる炎もいいですが、熾火(おきび)の状態も素敵です。
本栖湖・浩庵キャンプ場。奥は富士山。千円札と同じ構図。
朝霧高原。この日の朝は-4℃。極寒の朝に淹れる珈琲は格別のうまさがあります(この写真で香りまでと届くといいですけど)。
 子どもたちがまだ幼かったころ、家族でよくキャンプに行ってました。長野の牧場や福島桧原湖の舟でしか行けないキャンプ場などが記憶に残っています。
 牧場のキャンプ場でのこと。朝、耳元でボフッボフッという低い音がして目を覚まします。何事かと思いテントの外に出てみると、なんとわれわれのテントは数頭の大きな牛たちに囲まれ、彼らは牧草の朝食を食べていたのです。
 そんな日常では味わえないことを楽しんでましたが、ここ12〜13年ほどは仕事も忙しく、子どもたちの学校行事やクラブ活動などで都合が合わなくなり、しばらく行けずにいました。
 令和に入り、ある時動画サイトで焚火の炎を延々流しているだけの動画を発見します。炎と時々爆ぜる音だけです。これがなんとも時間を忘れ、炎というのは画面越しでもこれだけゆったりした気分にさせるのだと改めて思いました。
 これを機に、また自然の中に身を置きたくなり、ちょこちょことひとりで出かけてます。日常から少し距離を置き、森の中で鳥の声に耳を傾け、圧倒的な富士山の勇姿に度肝を抜かれ、揺蕩う湖面を眺めたりしながら、簡単な料理をつくり、炎を肴に酒を飲んだりしてます。
 このような「野遊び」という、ささやかですが人と自然との関わりから、やはり人は自然の一部であり、自然に触れ、戯れることが「自然」なことであり必要なのだと改めて感じるようになりました。世の中はますます情報化が進み、AIが発達し一見便利な社会になっていくのだと思いますが、人間らしい豊かな社会に向かっているのかというと、そうはいい切れそうもありません。
 そしてコロナによって社会は一変しました。地球も悲鳴をあげています。持続可能な方法を確立しないと持ちそうもありません。
 ひとの内面から地球環境まで俯瞰的・横断的に観自在に目が届く存在が、われわれ建築家だと思っています。ひとがひとらしく生ききる豊かな場を創出するため、これからも建築を通して与えられた命を全うしていきたいと思います。
大谷 浩一郎(おおたに・こういちろう)
(有)クエストワークス一級建築士事務所、東京都建築士事務所協会墨田支部
1965年 茨城県生まれ/ 1989年 日本大学卒業/2000年 事務所開設
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