BIMの課題を解くオブジェクト標準とBIMライブラリ 第4回(最終回)
BLCJ BIMオブジェクト標準ver2.0と試験BIMライブラリ
寺本 英治(BIMライブラリ技術研究組合専務理事)
概要
 連載第1回ではBIMにおける標準化の重要性について、第2回では日本と英国でのBIM普及の違いを、調査データをもとに紹介し、第3回は BIMライブラリ技術研究組合設立までの経緯とその活動を説明しました。今回は最終回として、BLCJ BIMオブジェクト標準とBIMライブラリについて紹介します。
図1 設備のオブジェクトを組み込んだサンプル建物の外観
図2 1階総合3Dビュー
図3 1階空調配管設備図
図4 1階空調ダクト設備図
図5 1階非常照明設備図
図6 オブジェクト標準の例(維持管理に引き渡す情報の一部)
図7 非常照明の属性情報の例
図8 デジタル化された公共建築工事標準仕様書(16章建具工事から)
図9 BIMの属性情報とデジタル化された公共建築工事標準仕様書の連携の例(16章建具工事から)
図10 BIMソフトウェア、メーカーによる用語の違い
BLCJ BIMオブジェクト標準
【1】建物と属性情報の関係
 これまでオブジェクト標準に関して説明してきましたが、日本ではそれほどBIMが普及していない状況で、BIMオブジェクトの属性情報の標準がどのように役立つのか、理解されない方も多いと考えています。そこで今回は、建物からスタートしてそれを構成する属性情報との関係を説明していきましょう。
 図(1)にBLCJで研究を進めているモデル建物とその外観を設備BIMソフトウェアで表示したものを示します。モデル建物はS造、地上4階建て、延べ面積約1000㎡の事務所兼店舗です。図(2)から図(5)にはBIMを用いた3Dビュー、それに対応した空調配管図、空調ダクト図、非常照明設備図を示しています。また図(6)にはオブジェクト標準の一例を示しています。さらに部品の属性情報の例として非常照明を図7に示します。
 図(1)から図(7)に示すように、たとえば1,000㎡の建築物の場合、それを構成する材料、製品、機器は一般に1,000を超え、またそれら材料、製品、機器の各々の性能・機能は数多くの情報項目(BIMの属性情報項目)で構成されて、安全で、必要な性能・機能を発揮することになります。それほど、ち密に建築物はつくられていることに改めて驚かれるのではないでしょうか。実際のプロジェクトでは、そのひとつに問題が生じたならば、設計者・技術者はその対応に走り回ることになります。
 さて本題に戻ると、属性情報が標準化されていれば、設計段階でたとえば非常照明を選定するために各社の製品を比較する場合に、excelを使って比較するような方法で行うことができるようになります。これが第1の効果です。
 実際に製品比較を行うには、BIMの場合には各社の製品が集められて閲覧できるBIMライブラリが必要になります。これはBIMを使わない場合は、各社のカタログ類やメーカーのウェッブサイトを見ながら比較していく作業ですので、それが簡単にできることになります。
 第2には、BLCJ BIMオブジェクト標準ver2.0は、建築確認に必要なオブジェクトを含めることになっており、現在検討中の建築確認でのBIM活用に対応できることになります。国土交通省が主催している建築BIM推進会議の中で、この検討が報告されていますが、2、3年のうちに実用化されると聞いています。
 第3には、BLCJ BIMオブジェクト標準ver2.0は、公共建築工事標準仕様書と連携を図ることを検討しています。このためには、現在紙ベース(本)で作成されている公共建築工事標準仕様書をデジタル化し、BIMの属性情報との連携を図る必要があります。この検討はBLCJが2021年度に行い、建築BIM推進会議などで公開しています。
 一部を図(8)、図(9)で紹介しますが、標準化は情報を一定のルールで規則正しく並べる(コンピュータでは同じIDやコードを与えることです)だけではなく、公共建築工事標準仕様書の用語とBIMの属性情報とが同一のものは同一にすることができます。
 たとえばコンピュータでは、「エレベータとエレベーターでは同一のものとして判別できない」と言われますが、ID等を活用することでこの問題は解決します。この例を図(10)に示します。たとえば窓の高さに関して、BIMソフトウェアや驚くことにメーカーが異なると、H、開口高さ、総高さ寸法、総H等と個性に富んで呼ばれていますが、コンピュータで扱うためにはひとつの用語に統一する必要があり、カタログの表記を変えずにIDなどでデジタル的に統一し、公共建築工事標準仕様書の特記に対応できる工夫が必要です。
 このように課題はありますが、情報が標準化されると、設計業務が効率化されるだけでなく、積算や施工、引き渡し・維持管理等のデジタル化につながる可能性があり、また現在はプロジェクトの異なる段階をつなぐのは人間であったものが、一部はシステムで自動的につながったり、処理されたりする可能性もあり、効率化だけでなく、情報伝達ゲームで生じる情報の誤り等のヒューマンエラーが減少される効果もあります。BIMの情報の標準化は、それをより上手に活用するため周辺技術のデジタル化、システム化などとつなげることが必要で、われわれの研究範囲はそれらについても対象にして進めています。
 BLCJ BIMオブジェクトの標準化の公表は、当初予定より1年遅れて、2023年春を予定していますが、その時点では標準とその仕様、また標準の利用の説明マニュアルも併せて公表し、さらに標準化されたBIMオブジェクトを実装する試験用BIMライブラリサイトの運用開始は、2023年度に入ってからを予定しています。
図11 試験用BIMライブラリサイトのイメージ
図12 試験用BIMライブラリサイトのトップ画面
図13 試験用BIMライブラリサイトの検索画面
試験用BIMライブラリサイト
 現在検討中の試験用BIMライブラリサイトは、図(11)に示すコンセプトで構成されています。
このコンセプトでは、BLCJ BIMオブジェクト標準ver2.0を情報項目の基礎として、各メーカーのBIMライブラリサイト、また標準化されていない有料の民間ライブラリサイト、さらにBIMソフトウェアと連携して、オブジェクト標準ver2.0を基盤として情報交換できることを将来目指しています。このため当面の開発は、太枠の中の標準化された情報による製品の検索を今年度末までに実現させることを目指しています。
まとめ
 以上4回のシリーズでBIMの標準化の意義、海外のBIM先進国と比較した日本の状況等を説明してきました。
 来春には、BLCJ BIMオブジェクト標準ver2.0が公開予定で、来年4月以降には試験ライブラリ(図12、13)も公開予定です。
 BIMを含むデジタル化が進むことを期待します。
寺本 英治(てらもと・えいじ)
(一財)建築保全センター理事・保全技術研究所長(兼)BIMライブラリ技術研究組合(BLCJ)専務理事
昭和50年建設省(当時)入省/本省、関東、近畿、東北地方整備局、JICAフィリピン建設生産性向上プロジェクトリーダー、本省建築課長、整備課長(兼)総理大臣官邸建設室長、官房審議官を歴任。その後(一財)建築保全センター専務理事を経て、2019年から現職/その他:buildingSMART Japan理事、JFMA戦略委員会委員、元日本建築学会理事等