VOICE
小山 充男(東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所)
今年も実をつけた庭のビワの木。
初夏のある真夜中、庭で吠える我が家の犬の声に目が覚めた。時間を確認すると午前2時。寝静まった真夜中、ご近所に大迷惑である。犬を慌てて家へ入れたが、苦情がくるのではないかとヒヤヒヤした。犬が吠えた先にビワの樹がある。暗くてハッキリとは分からなかったが、サワサワ揺れる葉の間に何やら小動物がいるようである。
 毎年、初夏に実が成るのを楽しみしているが、楽しみにしていたのは人間だけではなかった。ある日、庭の芝生の上の木陰で身繕いをしていた小動物を見かけた。タヌキ? と思ったが、鼻先から額に延びた白い模様がタヌキとはちょっと違うようである。ネットで調べるとハクビシンらしい。我が家の庭が生活圏らしく、夜中のビワに舌鼓をうっていたのはハクビシンだったようだ。
 近所に玉川上水、ちょっと足を延ばせば井之頭恩賜公園がある。その辺りに棲み処があって、きっとそこから来ているとばかり思っていたが、実はそうではなかったかもしれないことが後で分かった。
最近、近所に住宅が解体され更地になった土地がある。解体前は気にも留めなかったが、更地になったことでその奥の家に目が留まった。家は土壁の風情のある日本家屋だが、周りの庭は手入れされず、うっそうと木々が生い茂っている。家の土壁の一部は崩れて木舞が露わになっている部分がある。
 数年前、この家の前を通った時は住人が出入りしていたことを覚えているが、現在は住んでいる様子がない。家の前を通り過ぎると動物園のタヌキの檻の前のような獣臭を感じた。
 この家の近くの道路の真ん中で、夜中にハクビシンが喧嘩していたのを目撃したこともあった。ハクビシンは天井裏などを棲み処にすることもあると聞く。人が住まなくなった空き家はハクビシンの棲み処にうってつけだ。もしかしたら、この空き家もそうかもしれない。我が家へ来た初夏の招かざる珍客は、この空き家から来た可能性もあると思った。
空き家は年々増加していて社会問題となっている。
 空家等対策特別措置法では、「特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう」と定義されている。
 この家が特定空き家か否かはわからないが、害獣が棲みつき、近隣に迷惑が掛かっているとしたら、すでにそのこと自体が問題である。ますます少子高齢化になれば、空き家を減らすことは容易ではないだろう。ならば空き家の適正管理、有効活用、発生抑制などが重要になってくる。
 ビワに端を発したが、空き家に関して、建築士としての役割も少なくないだろうと感じた出来事だった。
小山 充男(こやま・みつお)
東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所
1967年長野県松本市生まれ/武蔵野美術大学建築学科卒業
カテゴリー:その他の読み物
タグ:VOICE編集後記