思い出のスケッチ #351
マウナロアの郵便局
森川 浩弌郎(元YENDO ASSOCIATES INC.、米国コネチカット州在住)
 私が住むマウナロアの街は、ハワイのモロカイ島の西側にある人口400人あまりの小さな街で、標高270mほどの火山の山頂付近にあります。ここに住む人たちの半分以上はハワイアンの人たちで、そのほかにはアメリカ本土からの移住者、日系人、ヒスパニックやフィリピンの人たちです。
 この地域はモロカイ・ランチと呼ばれていて、以前にリゾート開発され、小さなホテルや映画館、グリル、スナックなどがありましたが、地元住民の新規開発の反対で2008年に廃業になり、閉鎖されました。現在これらの建物は廃墟になっています。営業しているのはその当時にできたと思われる郵便局と、その向かいにあるコンビニエンスストアにようなジェネラルストア一軒です。
 今にも倒壊しそうなオンボロ郵便局ですが、この街ではたいへん重要な建物です。この街では各戸に郵便物が配達されないため、郵便局の前面に設置さている戸別の郵便箱に取りに行きます。通常の郵便物や郵便小包も取り扱っていますが、この街には生活に必要なものが買える店がないので、多くの人はアマゾンで買って郵便局で荷物を受け取ります。そしてこれらの仕事を郵便局員ひとりでやっているのです。
 郵便局の前は、カウナカカイという島でいちばん大きな街に行くシャトルバスの発着場所になっています。大きな木の木陰に小さなベンチとテーブルがあって、食料や生活必需品を買いに出かける人びとは、おしゃべりしながらバスを待ちます。通常、時間通りにバスが来ることはなく、2、30分遅れるのですが、それを見越して遅く行くと、既に発車していることもあるので油断できません。
 都会の生活に慣れた者には、不便で、娯楽施設もないので刺激がなく、少し退屈ですが、のんびりとゆっくり時が流れていきます。
森川 浩弌郎(もりかわ・こういちろう)
1960年 大阪市立都島工業高等学校卒業/1960年 大阪で圓堂建築設計事務所に入所/1962年 圓堂建築設計事務所東京に移転にともない東京に移転/1966 - 1968年 圓堂建築設計事務所勤務中、中村順平先生に師事する/1991 - 1997年 YENDO ASSOCIATES INC.ニューヨーク事務所に勤務/現在、米国コネチカット州に在住