社労士豆知識 第57回
多様な働き方と労災保険特別加入制度
横手 文彦(特定社会保険労務士、横手事務所)
 ここ数年、感染症の流行によって断続的に飲食業に対する自粛要請が繰り返されたために、料理店が料理を店外に出して飲食に供する形の業務に注力せざるを得なくなりました。その結果、出前サービスを請け負う自転車等による配送業が盛況です。しかし、このような自転車等による配送人の働き方は、出前仲介業者や出前元の飲食店に雇用されているわけではないようで、労働法による保護が及ばないか十分でないという見方もできます。
 感染症が流行して以来、出前サービスを請け負う自転車等による配送業がさまざまな意味で世間の注目を集めたことで、今後はこのような働き方をされる方々をいかに保護していくのかが、労働政策の観点からは課題のひとつになりました。特に、配送業者が、業務中に路上で転倒する等の事故に遭遇する危険性はきわめて高いので、そうしたときの補償が肝要と考えられます。自転車による出前サービスなど社会の変化に伴う働き方の多様化に対応して、令和3年度に労働者災害補償保険(以下「労災保険」という)の特別加入制度の改正が行われています。
労災保険の特別加入制度
 それでは国の施策として、請負業で働く自転車等による配送人が業務中に事故に遭遇した場合の補償にどのような手段が考えられるかです。国の労災保険は、本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度です。
 しかし、労働者以外であっても、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる者に一定の要件の下での任意加入を認める特別加入制度があります。
 特別加入できる者は、中小事業主等、一人親方等、特定作業従事者および海外派遣者の4類型に大別されます。本稿では、令和3年中に見直された一人親方等および特定作業従事者について、改正点を中心に解説していきます。
一人親方等
 一人親方等とは、労働者を使用しないで「厚生労働省令が定める一定の事業」を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する者のことです。土木建築関係では独立して業を営む大工、左官、とび職人など、また、個人で営業しているタクシー業者や貨物運送業者などが代表的な一人親方に当たります。
 これらに該当する方々は、労災への特別加入ができるようになるのですが、その際には一人親方等の団体(特別加入団体)なるものを設立し、都道府県労働局長の承認を受けなければなりません(既存の特別加入団体に新たに加入する方式でも可)。このような仕組みになるのは、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険の適用を行うという考え方をとっているからです。したがって、都道府県労働局長への特別加入等の手続きは、特別加入団体を通じて管轄の労働基準監督署経由で行うことになります。
 省令の定める一定の事業の中には「自動車を使用して行う旅客若しくは貨物の運送の事業又は原動機付自転車を使用して行う貨物の運送の事業」という項目がありましたが、自転車による貨物運送の事業が含まれていませんでした。令和3年9月1日からは、自転車を使用して貨物運送事業を行う者もこの中に追加され、出前サービスを請け負う自転車等による配送業者が特別加入できるようになっています。
 このほか、令和3年4月1日から施行された改正で、これまでは7項目だった省令の定める一定の事業に「柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業」、「高年齢者の雇用の安定等に関する法律第10条の2第2項に規定する創業支援等措置に基づいて行う高齢者の事業」が追加されています。
特定作業従事者
 特定作業従事者とは、厚生労働省令で定める種類の作業に従事する者を指し、(1)特定農業従事者、(2)指定農業機械作業従事者、(3)国または地方公共団体が実施する訓練従事者、(4)指定された作業に従事する家内労働者およびその補助者、(5)労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者)、(6)介護作業従事者および家事支援従事者でした。これらに、令和3年4月1日の改正で、(7)芸能関係作業従事者として、労働者以外の者であって、広告を含む放送番組、映画、寄席、劇場等における音楽、演芸その他の芸能の提供の作業またはその演出もしくは企画の作業を行う者、(8)アニメーション制作作業従事者として、労働者以外の者であって、アニメーションの制作の作業を行う者が追加されています。
 また、令和3年9月1日の改正で、(9)ITフリーランスとして、情報処理システムの設計、開発(プロジェクト管理を含む)、管理、監査、セキュリティ管理もしくは情報処理システムに係る業務の一体的な企画またはソフトウェア若しくはウェブページの設計、開発(プロジェクト管理を含む)、管理、監査、セキュリティ管理、デザインもしくはソフトウェアもしくはウェブページに係る業務の一体的な企画その他の情報処理に係る作業に従事する者が、特定作業従事者として加えられています。
 特定作業従事者についても、特別加入団体を事業主、特定作業従事者を労働者とみなして労災保険の適用を行うという考え方は一人親方等の場合と同様です。
 特別加入を希望する者は、特別加入団体に対して申込手続きを行います。特別加入団体は、管轄の労働基準監督署を通じて「特別加入申請書」または「特別加入に関する変更届」を都道府県労働局長に提出することによって手続きが行われます。
横手 文彦(よこて・ふみひこ)
特定社会保険労務士、横手事務所
1959年東京生まれ/1982年早稲田大学法学部卒業後、大手証券会社に入社/2007年コンサル会社に所属/2010年 特定社会保険労務士登録、開業登録/2011〜2016年 日本年金機構 年金特別アドバイザー
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士