テクノロジー+ 第12回
災害配慮トイレ──いつもと同じみんなのトイレ「レジリエンストイレ」
田尻 明(東京都建築士事務所協会賛助会員、株式会社LIXIL)
図1 避難所で問題になった施設・設備
「平成23年度東日本大震災における学校等の対応等に関する調査研究報告書」(平成24年3月文部科学省)(http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323511.htm)を基に作成
図2 「いつものトイレ」に断水対策をプラスする、という逆転の発想
図3 断水時はタンク内部のリングを抜くことで、1Lモードに切り替わる。
図4 レジリエンストイレの構造
図5 1Lでの給水方法
図6 車椅子でも使いやすい
図7 フチレスと掃除しやすい形状
図8 手動給水方式
トイレの使用回数は36回/時、バケツ1杯9Lの場合
図9 汚水循環方式
災害とトイレ
 私たちは誰しもがいつ、災害に見舞われるかわかりません。災害に巻き込まれてしまったら、最優先は命です。自分の、家族の、周りの命を守ることができたら、そのあと向かう先は、避難所です。災害時に開設される避難所は、多くの被災者が集まりいつもとかけ離れた生活においては、ストレスがたまっていきがちです。ストレスの蓄積は、最悪の場合、死にもつながります。
 何がストレスになっているのでしょうか。避難所で問題となった設備を見ると、トイレに関することが上位です(図1)。避難所におけるトイレの課題は、何と言っても衛生面です。断水で水が流せなくなると、詰まった状態でも無理やり使用する状況も出てきます。汚いトイレを敬遠して排泄を我慢し、水分の摂取を控えることなどによる脱水症や、不衛生な状態での使用による感染症の危険があります。どちらも、病気や死亡へのリスクを高めることになります。
災害時のトイレ事情
 避難所での「し尿の処理」は「水や食糧の確保」と同じく重要な課題です。過去の災害では、不衛生で劣悪なトイレ環境のため健康被害に至ったケースも報告されており、災害から助かった命をつなぐためには、だれひとりとして取り残さず、いつもと同じように使えるトイレ環境の整備が大切です。
 LIXILが長年にわたって培ってきた技術を、災害時のトイレにも活用できないだろうか──東日本大震災をきっかけにレジリエンストイレの開発を始めました。開発にあたっては、災害時にトイレに求められることは何かという原点から考え始めました。
 そこで、災害時のトイレについて、自治体などの避難所を設置する側が想定している課題を聞いてみました。すると洗浄水の確保や、汚物や汚水の処理や清掃、トイレの設置や撤去など、主にハード面の運用における課題を考えていることがわかりました。一方で、実際にそこで生活することになった避難者の方に何を求めるかを聞いてみると、衛生面はもちろんのこと、ユニバーサルデザインへの要望の多さが目立ちました。東日本大震災では震災関連死の実に9割が66歳以上だったこと*1も考え合わせると、高齢者など、要配慮者への対応が重要であるといえます。車椅子利用者の方や小さなお子さん、女性など、誰でも安心して使えるトイレであることが大切なのです。
*1「平成23年度東日本大震災における学校等の対応等に関する調査研究報告書」(平成24年3月文部科学省)
 そうしたニーズに応えるトイレを、どうしたら実現できるか。解決のヒントとなったのは、従来の災害用トイレを快適に使えるように改善して「いつものトイレ」に近づけるのではなく、「いつものトイレ」を災害時に断水しても使えるようにするという逆転の発想でした(図2)。
 そして誕生したのが 「レジリエンストイレ」です。災害時でも、普段と同じように無理なく安心して使えるトイレです。避難所となる学校や公民館、防災拠点となる庁舎のトイレとして設置し、平常時も使用できる点が、災害時のみ使用する従来型の災害用トイレとは異なります。建物内のトイレですので、特に雨天や夜間も安心して使用できます。使用方法も、一般的な便器と同等です。
レジリエンストイレの特長
 レジリエンストイレの最大の特長は、「いつものトイレ」を災害時にもそのまま使用できるということです。水道や電気などのライフラインが止まり、断水しても、いつものトイレの機能もそのままに快適にご使用いただけます。
 レジリエンストイレは通常使用時は5Lの水で洗浄しますが、断水したときには、タンク内部のリングを抜くだけで1Lモードに切り替わり、水洗トイレとして衛生的に汚物を排出できます(図3)。1Lなら、500mLのペットボトル2本。多くの人が簡単に持ち運べる量です。避難者が自分でトイレの処理をできることで、管理者の負担軽減も期待できます。
 1Lという洗浄水量を実現できた仕組みのひとつが「強制開閉弁」です。一般的なトイレのトラップ構造は、臭いや虫などの侵入を防ぐために常に一定量の水をためています。断水すると、それだけの水を確保するのが難しくなり不具合が起こります。
 しかし、レジリエンストイレは、便器鉢内部に設けた弁を、強制的に開閉します。開閉弁は洗浄ハンドルと連動し、重力と1Lの洗浄水で、汚物を排出します。開閉弁はバネの力で制御され、防虫・防臭機能もあります。平常時には水洗トイレとして使用する一方、水道や電気のライフラインが止まっても確実に稼動できる画期的なシステムです(図4)。
 給水は、便器の鉢に直接入れる方法と、あらかじめタンクに入れておく方法があり、状況に応じて、使い分けることができます(図5)。
そして、誰でも快適に使える工夫も、大きな特長です。通常の陶器製の洋風便器で、さらに車椅子での使用を想定して、便器の前に傾斜をつけ、近付きやすくなっています(図6)。
 避難所のトイレは、使用する人数も多く、汚れやすくなります。そこで、普通のトイレ以上に、掃除のしやすさが重要になってきます。レジリエンストイレは、便器のフチをなくした「フチレス」に加えてサイドカバーによって、凹凸のない形状を実現し、サッとひと拭きで掃除できます(図7)。
 通常、便器の外に排出した汚物は洗浄水によって下水道まで搬送されます。しかし、平常時の5Lと異なり、洗浄水1Lでは搬送する力がありません。そのためレジリエンストイレは災害の断水時のみ、便器から排出した汚物を下水道まで搬送する手助けが必要です。
 LIXILでは、配管を市販品で構成できる「手動給水方式」または「汚水循環方式」、いずれかの配管設計をおすすめしています。
① 手動給水方式:最上流側のレジリエンストイレもしくは掃除用の流しから、1時間ごとにバケツ3杯程度(約27L)の搬送水を流すことで汚物を下水道まで搬送する方式です。バケツによる投入のための人手が必要になります(図8)。
② 汚水循環方式:レジリエンストイレから排出した汚水を循環させて汚物を下水道まで搬送する方式です。あらかじめ汚水用の循環槽・ポンプ・循環配管を設置する必要があります。停電の場合に備え、ポンプを稼働するための予備電源も必要です(図9)。
災害時のトイレのあるべき姿
 大きな活躍が期待できるレジリエンストイレですが、これだけで避難所のトイレ課題を解決できるわけではありません。通常使用を考慮すると建物内に設置できる台数にも限りがあります。車椅子利用の方や高齢者、夜間の女性の利用などの質的ニーズへの対応はレジリエンストイレで、量的ニーズへの対応はこれまでの仮設などの災害用トイレで、といった使い分けが大切になってくるでしょう。
 避難所での人びとの負担やストレスを減らし、衛生的な環境を構築する「レジリエンストイレ」で、災害時でも「いつもと同じように、誰でもみんなが、使うことのできるトイレ」を実現します。
商品についての技術的なお問い合わせはお客様相談センターまで
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田尻 明(たじり・あきら)
WTJ営業本部 プロジェクト営業部 キーアカウント営業グループ 関東ブロック担当
1962年 福岡県生まれ/1986年 横浜市立大学商学部卒業後、INAX(現LIXIL)に入社/東京・広島・千葉・茨城で長らくタイル建材の提案活動に従事した後、2018年にパブリック市場での提案強化のため新設されたキーアカウント営業部に異動。現在、最新の設備機器による施設改善に向けて自治体・大学中心に提案活動を行っている