旅先でカメラを構えると、撮ることで安心してしまい、ちゃんと見ていないことに気付きます。昔の写真を見ると、ここどこだっけ? などと。つまりこれは百年プリントなんかではない。そのことに気付いてから私は旅先で建築やさまざまな風景を見ると、「私だけの」百年プリントをせっせとつくります。紙に描くと、あの時は小雨交じりで寒かったなあ、とか、カンカン照りで汗が止まらなかったなあ、とか、ランチはマズかったけどあの風景は格別だったなあ、とか、仕事終わらなかったのによく行ったもんだなあ、とか、あの時カミさんと喧嘩して、とか、とか、とか。色んな空気感が蘇ってきます。
私はこれをあえてスケッチと言わず「私だけの百年プリント」と呼んでいます。スケッチや素描という言葉では、臭いや、気分、空気感、忘れていた記憶を封じ込めた、という意味合いが伝わってこないからです。百年プリントは百年(生きている間)+フットプリント(足跡)の合成で、その頭に「私だけの」をつけて、少し控え目にしています。
控え目に、と言っておきながら、たまには人に見せてみたい、という承認欲求が邪魔をして、Facebookに上げたり、こうして原稿を書いたりしているのですが。
小林 幸司(こばやし・こうじ)
東京都建築士事務所協会杉並支部役員、青年部会幹事、(株)小林幸司建築設計事務所
1975年 東京生まれ/2013年 (株)小林幸司建築設計事務所 設立