正月の室礼
連載:私の逸品 ②
富永 彦文((有)富永建築設計事務所、東京都建築士事務所協会西多摩支部)
 われわれは生活の根幹を成す「衣・食・住」の住、すなわち「居住空間をつくること」を生業にしていますが、豊かな居住空間をつくるには、衣食の知識も重要と考えています。そこで新年を迎えるに当り、わが家の室礼を紹介しようと思います。
輪島塗のテーブルセッティング
 普段は料理の盛り付けも、大皿が多いと思いますが、ハレの日には個々のお膳で召し上がってはいかがでしょうか? 普段見慣れた家族の顔も、きっと違って見えることと思います。ここで大事なのは、料理は奥方に任せるとして、食材調達、器の準備・片付け等、亭主ができる限りの行動を取らないと、奥方の全面協力を得ることはできません。しかし、子どもたちや来客が料理を楽しみ喜ぶ顔を見ると、「またやろうか!」という気になります。
輪島塗絵替り蒔絵胴張隅切足付懐石膳
 飯、汁、向付等を載せる膳です。和の考え方に、真行草があり、格式を表します。一見装飾がきらびやかな方が、格式が高そうに見えますが、飾りを廃したシンプルなものが、高位となります。数奇屋と同じ考えです。この絵替り膳は、椀と組になっており、10客揃いです。琳派を思わせる絵柄で「鵜飼い・椿」は、今見てもとてもモダンです。
朱組盃と黒盃台
 盃を用いて酒を酌み交わす杯事は、人間関係を確認し、強固にするために行われます。このため盃を「絆」の意味で用いることもあります。この組盃と台は、木曽の漆器作家に依頼したものです。
輪島塗独楽盆
 独楽は、人びとの生活の中に幸運をもたらす縁起物として、珍重されてきました。俗に独楽は「よく回る」ことから、その人の人生が円滑に回転しますようにとの願いが込められています。
 民芸運動を起こした思想家・柳宗悦は、名もなき職人の手から生み出された日常の生活道具の美しさを「用の美」として讃えました。この独楽盆は、まさしくその「用の美」が備わっており、いつ見てもシンプルな力強いデザインと色使いで、使い手を飽きさせない名盆です。

 豊かな「居住空間」をつくるには、「ゆとり」が必要と考えています。平面計画上のゆとり、空間としてのゆとり等、無駄なようで無駄ではない「ゆとりの空間」こそ、豊かな空間構成に欠かせないものと思います。 この室礼文が、その一助になることを願っています。
富永 彦文(とみなが・ひこふみ)
建築家、(有)富永建築設計事務所、東京都建築士事務所協会西多摩支部
1947年北海道生まれ/1975年 (有)富永建築設計事務所設立、同年 東京都建築士事務所協会西多摩支部入会/1983〜88年 同副支部長/1999〜2002年 同支部長
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