避難所モデルプランができあがりました
避難所のあり方を考える勉強会
富樫 亮(東京都建築士事務所協会副会長、避難所のあり方を考える勉強会 主査、千代田支部、株式会社日建設計)
表紙(部分)
運営者や被災者にわかりやすいイラスト主体の内容。
具体的な寸法や配置をわかりやすく示している。
 新型コロナウイルス感染症の蔓延により、私たちの生活は大きな変化を余儀なくされています。日常の生活はもちろん、地震や風水害などによってやむなく避難所生活を送る場合でも、感染対策はできる限り講じられなければなりません。
 自然災害の激甚化が著しく在宅避難も推奨される中、感染対策と安全で安心な避難所の運営は両立できるのか? 特に、感染を避けるために必要といわれている1人当たり4㎡の面積を避難所に当てはめると果たして面積は足りるのか?
 こうした問題意識から、昨年(2020年)6月「避難所のあり方を考える勉強会」が発足しました。
避難を「環境」として総合的に考える
 勉強会を始めた当初、感染症対策を踏まえた避難所マニュアルの事例は数少なく、防災対策や感染症の専門家ではない私たち建築士が、どのように避難の安全・安心に貢献できるのかは手探りの状態でした。さまざまな調査や検討を進める中から少しづつ、ひとつひとつの基準やルールに加え、私たち建物を設計する“建築士”の視点から、避難を「環境」として総合的に考えることも重要ではないか、という方向性が出てきました。
 そこで、感染症に関する一般的な知識を基に、具体的な寸法や配置を通じて避難所のあるべき姿をわかりやすく示すこと、できれば具体的な避難所プランをモデルの形で提示することを目標にしました。
設備面からの具体的な工夫も紹介
 TARCのメンバーである建築設備設計事務所協会からもご参加いただき、建築設備についてもできるだけ具体的な工夫を紹介するよう心掛けました。
 実際に災害が発生した際、避難所の錠を開けることに始まり、避難して来た人たちを受け入れ、必要な期間健全な状態で施設を運営していくために、現場で必要となる知識や工夫すべきポイントをリストアップしていきました。実際に避難所を運営した経験をお持ちの自治体のご担当者にもヒアリングさせていただき、厳しい現実の中から得られた貴重な知見もできる限り盛り込みました。またこの課題に対しては、会員の方々の関心も高く、勉強会の委員以外の方からも、貴重な資料やご意見をご提供いただきました。この場をお借りして深くお礼を申し上げます。
パンフレットはイラスト主体のシンプルな構成で
 一刻を争う実際の避難の現場にあって、避難所運営の責任を担う地域のリーダーや、そこで生活する被災者に役立つ知恵やノウハウが、分かりやすく迅速に活用できるよう、文章による解説は必要最小限にとどめ、イラストを主体とした表現にすることにしました。紙面はひと目で全体の構成が見て取れるよう、A4判見開きの8ページとシンプルな構成になっています。
 限られた紙面に掲載できなかった、分野ごとの必要事項を個別に確認できる避難所チェックリストや、ウエブ上に公開されている国や自治体の防災マニュアル、避難ガイドラインなどのアクセス先もリスト化して、パンフレットに記載したQRコードから協会ウェブサイトの掲載箇所に飛べるようにしました。

 最近の風水害は従来の想定を超えた規模になることが多く、その被害も地域の事情や季節・気候などによってさまざまです。感染症の脅威も日々刻々と新な変化が生じていて、避難所の在り様は一律ではあり得ません。協会員の皆さんにはぜひこのパンフレットを介して、地域の自治体や町内会の方々と話し合いの機会を持っていただきたいと思います。モデルプランを参考に、安全で安心な避難所の運営が柔軟かつ効果的行われる事を期待します。
富樫 亮(とがし・りょう)
東京都建築士事務所協会副会長、千代田支部、株式会社日建設計
1955年 新潟県生まれ/早稲田大学大学院修士課程修了/1980年 株式会社日建設計入社/同取締役常務を経て現在、同フェロー/千代田支部