VOICE
井出 幸子(東京都建築士事務所協会豊島支部副支部長、株式会社井出幸子建築設計室一級建築士事務所)
7月3日昼、LINEに熱海が飛び交う。小さなiPhoneの山津波の映像に息が詰まった。この3日後の7月6日に、第167回防災アカデミーで釜井俊孝氏の「宅地の防災学──未災の地盤」を視聴した。終身雇用制が持ち家政策をサポートし、ニュータウン開発を加速させ、「ディベロッパー、ハウスメーカーの勃興」の過程で膨大な谷埋め盛土ができた経緯が説明され、「災害の管理は、欲望の管理」と黄色マーカーで記された。土砂災害の「滑りのメカニズム」が説明され、「スポンジ化」に向かう郊外住宅、私権が極端に膨張する欲望を「どのように管理するか」。そのためには、盛土・切土を不動産取り引きの重要説明事項に入れ、盛土のリスクを金銭化し……など、首都直下地震への備えの提案が続く(参照:「宅地の未来学」https://misai.jp/2020/08/30/宅地の防災学/)。プロジェクト開始にその地歴の盛土の有無を確認する方法のひとつは、「今昔マップ」(埼玉大教育学部、谷謙二、https://ktgis.net/kjmapw/)だという。耳目が釘付けになった講演だった。
建築士の日(7月1日)、三井所清典氏の記念講演「災害と建築士とすまい」を、Youtube配信(https://www.youtube.com/watch?v=aUYwPj-g-lA)で視聴した。
 遡って2016年9月末、被災後の熊本に、私たちは熊本建築士会女性部会の案内で入った。空港近くのテクノパークでは広大な仮設住宅群の設営が始まっていた。仮設住宅の基礎は、従来の松杭基礎と将来を見越したコンクリート基礎の工事が同時に進行していた。翌年の3月再訪し、「くまもと型復興住宅」モデルハウスを訪ねた。三井所氏と熊本建築士会による「この土地の形を継いだ、土間玄関があり農家でも使いやすく、二間続きの和室のある復興住宅の提案」を見学した。
 今回の講演で、中越地震以降の三井所氏の被災地を見守る履歴を聞き、益城の提案を再認識した。
 建築士には、周りを巻き込んで統合化する力が備わっているはず。復興住宅づくりは、まず生業を再建するため工事費は限られるのだから、住まいは小さく未完成でいいのだ。これは、建設後も地元工務店や大工へ仕事が継続するシステムにつながる。私たちの日常の異業種・行政との連携が発災後のまちづくりのベースになる。その土地を知り、皆でその景観の意味を解釈・共有することで、その景観を未来につなぐことができるはず、と鼓舞された講演だった。被災地の全国一律の景観を嘆くだけの自分に恥入りながら聞き終えた。
 秋の日事連熊本大会では、水害にも見舞われ、復興「未だ半ば」といわれる熊本がどう語られるのだろうか。
井出 幸子(いで・さちこ)
東京都建築士事務所協会豊島支部 副支部長、UIFA JAPON(国際女性建築家会議日本支部)広報担当理事、(株)井出幸子建築設計室一級建築士事務所
1950年 東京都生まれ/1972年 日本女子大学住居学科卒//1972〜2012年 (株)アール・アイ・エー勤務、各種計画・意匠設計に従事/2012年 (株)井出幸子建築設計室一級建築士事務所設立
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