VOICE
田口 吉則(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会委員長、江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計)
松家仁之著『火山のふもとで』2012年、新潮社
伊東豊雄著『美しい建築に人は集まる』2020年、平凡社
コロナ禍、家で過ごす時間が増えたことにより生活様式が変化し、住まいや建築への関心が深まっている。それでも相変わらず近所にでき上る建物は、プラモデルのようで味気ない。近隣の方はどの様に思っているのだろうか?
松家仁之著の『火山のふもとで』(2012年、新潮社)は、氏が吉村順三やレーモンドの別荘を連想させる軽井沢の「山の家」でひと夏、仕事をする建築家たちを描いた小説だ。時は1982年、若い主人公を含む13人のスタッフが国立図書館の指名コンペの当選を目指し、協力し合い頑張る。淡々と物語は進んでいくが、これほど建築を語りその設計行為を描いた小説はないだろう。フランク・ロイド・ライトやアスプルンドの人生や建物を饒舌に語る。そして何より素晴らしいのは、自然・料理・音楽・ファッションのことを建築の一要素のように丁寧に織り交ぜて美しく語られていることだ。
 終盤、53歳になった主人公が、自身の開設した設計事務所をどう終わらせるか考え始める。そして空家となった「夏の家」を訪れ、昔を回想するところで物語は終わる。読み終えた後、心に不思議な余韻が残った、なぜだろう? 入社したころの自分のこととも重り、確かめる箇所があるような気持ちが湧いてきて、この本をもう一度読み直した。
伊東豊雄氏は著書『美しい建築に人は集まる』(2020年、平凡社)で「日本で食べ物は、和菓子とか寿司等美味しいものは受け継がれていくのに、建築は過去の美しいものが、食べ物のように現在につながっていない」。「いま若い建築家を見ていると、シェアハウスやシェアオフィスの仕組みづくりや、古い空家の改修にはポジティブだけれど、美しいものをつくろうという気はないようにも見えます。……僕はもっと建築の美にこだわりたい」と述べている。近い将来、設計・製図はAIがやってくれる、どのような命を建物に吹き込むか建築家の手腕が問われる。
『日事連』3月号のBOOK REVIEWという本の紹介コーナーで、どなたが書かれているかは存じないが、「この10年間感じるのは建築が薄っぺらであり、建築計画的であり、建築が本来原初的に持つ空間が希薄で存在感がないことだ」と言い切ったのは少しばかり驚いた。
さて『コア東京』は薄っぺらな内容になってはいけない。この夏からいくつかの連載が終わるのと交代に3つの連載を予定している。ひとつ目は、河村茂氏(都市建築研究会代表幹事)の「都市の歴史と都市の構造」。世界の代表的都市を取り上げ、都市がいかにつくり上げられてきたかを、建築を中心に写し出していただく。
 ふたつ目は昨年、ユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統建築工匠の会」に所属する9つの保存団体がバトンでその思いと活動を伝えていただく。
 そして3つ目は、建築関係ではない著名人に建築のことを語っていただくという大胆な企画だ。記念すべき1回目は、2級建築士の資格を持つ女優の田中道子さんにお願いした。ドラマで設計者の役をこなし、ロケで奥野ビルなど銀座レトロのビルを紹介し、トークショーで「理想の住まい」を説明したりする田中さん、どのようなことを語っていただくのか?これからの『コア東京』、何が出てくるのかお楽しみに!
田口 吉則(たぐち・よしのり)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員長、江戸川支部副支部長
1953年東京生まれ/(株)チーム建築設計代表取締役
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:VOICE編集後記